土壌中のメタン存在量と大気への発生量の関係

 一般に水田からのメタン発生量は9月以降減少する。しかし、この原因がメタン生成速度の低下によるのか、生成したメタンの土壌からの発生量の低下によるのかは不明であった。そこで、土壌中に存在するメタン量とメタン発生量の関係を調査した結果、水稲を植付けないで稲ワラを施用した土壌では7月以降多量のメタンが存在するにもかかわらず大気へのメタン発生量は極めて少ない値であった(図13)。他方、水稲を作付けした稲ワラ施用土壌では分けつ期大気へのメタン発生量の増加に伴って土壌中のメタン存在量は減少し、最高分けつ期頃にはメタン発生量および土壌中存在量がともに減少した。生殖生長期以降土壌中メタン存在量は収穫期まで増加したのに対し、大気へのメタン発生量は8月下旬にピークを示し、9月以降減少した。従って、9月以降のメタン発生量の減少がメタン生成量の低下に起因するのではなく水稲根系を通しての発生量の低下に主要な原因があると判断された。また、水稲作付け区では7月中旬_8月下旬における生成メタンの土壌中平均滞在時間は2日以内と推察された。

  収穫期、土壌中に残存したメタンは落水に伴って大気へ放出されると考えられる。そこで、収穫期の水稲作付けポットを供試して、落水過程での大気への発生量、下方への移行量、測定期間中の酸化量、をそれぞれ測定した結果、土壌中に残存するメタンの量は水稲栽培期間中に発生したメタン総量の約4_6%に相当すること、落水開始後3日以内に大部分の土壌中メタンが大気へと放出され、その過程でのメタン酸化は極微量であると推察された(図14参照)。

  1. Watanabe, A. and Kimura, M. : Methane production and its fate in paddy fields. VIII. Seasonal variation of methane retained in soil. Soil Sci. Plant Nutr., 41, 225-233 (1995)
  2. Watanabe, A., Murase, J., Katoh, K. and Kimura, M. : Methane production and its fate in paddy fields. V. Fate of methane remaining in paddy soil at harvesting stage. Soil Sci. Plant Nutr., 40, 221-230 (1994)