心土での嫌気的メタン分解

 作土をカラムに充填して湛水状態としたもの、心土をカラム充填して湛水状態としたもの、作土カラムと心土カラムを連結し湛水状態としたもののそれぞれから透水液を採取しメタンの濃度を比較した結果、浸透水中のメタンが心土を通過中に分解することが判明した(図15参照)。また、同時に測定した透水液および心土中の二価鉄(Fe2+)と溶存有機炭素の量から、作土に連結した心土中で増加した二価鉄のうち19_21%は心土中でのメタン分解と共役して生成したものと推察された。なお、心土カラムを2ヶ接続した区を設け1ヶの場合と比較した結果、心土カラムの追加による顕著なメタンの減少は認められず、心土中でのメタン分解に上限のあることが示唆された。次いで、心土に代えて作土を連結し、上部作土カラムには稲ワラを添加したところ、心土と同様に下部作土カラムを通過した透水液中のメタン濃度は減少しており、作土中でもメタン分解の起こっている可能性が推察された。本実験条件ではメタン分解に酸素の関与は考えられず、ここで観察されたメタンの分解は嫌気的な分解と判断された。

 上記のメタン分解の結果は培養30日間のカラム実験から得られたものであり、水田圃場では活発なメタンの生成・大気への発生量は水稲生育中・後期に観察される。そこで、水稲を作付したポットを野外に準備し(3kgの作土を充填)、下部に心土カラム(400gの心土を充填)を連結した区を設けて透水実験を行なったところ、水稲栽培2ヶ月後頃より透水液中にメタンが検出されるようになり、稲作期間中に作土から浸透してきたメタンの心土カラム中での分解割合が70%以上にも達した(図16参照)。

  1. Miura, Y., Watanabe, A., Murase, J. and Kimura, M. : Methane production and its fate in paddy fields. II. Oxidation of methane and its coupled ferric oxide reduction in subsoil. Soil Sci. Plant Nutr., 38, 673-679 (1992)
  2. Murase, J. and Kimura, M. : Methane production and its fate in paddy fields. VI. Anaerobic oxidation of methane in plow layer soil. Soil Sci. Plant Nutr., 40, 505-514 (1994)
  3. Murase, J. and Kimura, M. : Methane production and its fate in paddy fields. IX. Methane flux distribution and decomposition of methane in the subsoil during the growth period of rice plants. Soil Sci. Plant Nutr., 42, 187-190 (1996)

水田から発生するメタンの起源、メタンの土壌中での動態にもどる  

2-1. 土壌中メタンの透水による心土への移行 

2-2. 大気への発生量と心土への移行量の関係

2-3. 土壌中のメタン存在量と大気への発生量の関係

2-4. 心土での嫌気的メタン分解 

2-5. 心土におけるメタン分解に関与する微生物の生態

2-6. 地下水利用に伴うメタンの放出

2-7. 作土・心土中での嫌気的メタン酸化の機構推定