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口之島の位置    口之島牛とは,鹿児島県トカラ列島の口之島において、放牧されていた牛が明治以前に野生化したものです。  
 もともと家畜である牛が野生化した例は世界的にも珍しいと言われており、当施設では口之島の野生個体を捕獲して飼育を開始しました。  
   
 この口之島牛は、見島牛(山口県萩市の沖合約50kmに浮かぶ見島に生息しており、日本在来牛として学術上貴重なものとして1928年に国の天然記念物に指定された牛)とならんで純粋な日本在来牛と考えられています。
 
 日本における牛の歴史をたどると、1900年(明治33年)からヨーロッパの近代的品種が盛んに輸入され、在来種と交雑されて改良が行われたと言われています。そのため「和牛」と呼ばれる牛も、ヨーロッパ近代品種の遺伝的影響を受けている品種であると言えます。  
 このことから、日本在来牛とは分化の進んだヨーロッパ品種の遺伝的影響を受けていない純粋和牛ということになります。
 
 また口之島牛は、黒毛、褐毛、白斑という毛色変異を示すとともに、小柄で後駆がしまり腰骨幅と座骨幅が著しく狭いという体格を有しています。このような毛色・体格といった外見的特徴から、絵巻に残されているような平安時代の絵画に見られる牛車の牛に相当するものと考えられます。そのためこの牛には、古来保持している未発見の形質が存在する可能性もあります。

口之島牛の外観   平安時代の牛車をひく牛
口之島牛   平安時代の牛車をひく牛
『日本の絵巻 平治物語絵詞』より引用転載
口之島牛とホルスタインの体格比較 《左上》黒毛の口之島牛。腹に白斑がある。これは比較的小さい白斑で、もっと大きな白斑を持つ個体や全く白斑のない個体もいる。

《右上》平治物語の絵巻に描かれている牛。当時の牛は牛車など労働力として利用されていた(役畜)。

《左下》褐毛の口之島牛(左)とホルスタイン(右)。口之島牛はホルスタインと比べて大変小型であることがわかる。
口之島牛(左)とホルスタイン(右)
   
 このように口之島牛は遺伝資源として貴重であると同時に、わが国における文化財的価値をも有する牛であるということができます。また近代的畜産においては,生産効率のために限られた形質が選択淘汰されてきたことで、家畜の遺伝的多様性が急速に失われつつあり、環境変化や疾病の発生への対応が危惧されていることからも,動物遺伝資源の多様性の保護が強く望まれています。
 

 当施設での飼育目的は、口之島牛を一般的な乳用・肉用牛の様に生産を主眼におくのではなく、貴重な遺伝資源として繁殖集団を確立し・保存しながら、多様な実験にも利用させることでした。
 

 当施設における飼育履歴は、1990年、口之島にて野生状態で生息していた成牛のオス1頭、メス3頭が地元の方の協力により捕獲・導入されたことに始まります。さらに1993年、オス2頭、メス3頭が財団法人畜産学研究所から寄贈されました。
その後61頭を繁殖させ、合計70頭を飼育し研究などに利用してきましたが、2013年度末をもちまして飼育を終了いたしました。
 

 最後まで飼育していた個体達は、全国7か所の動物園、牧場に譲渡いたしました。