動物遺伝制御学研究室
Laboratory of Animal Genetics
Laboratory of Animal Genetics
動物の種間雑種にみられる不妊や雑種退化の遺伝制御機構に関する
遺伝学的研究
遺伝学的研究
平成23年度より新学術領域研究「ゲノム・遺伝子相関」が発足し、当研究室は、「異種ゲノムの不適合性が引き起す雑種の雑種不妊・発育不全現象の遺伝的制御機構」という研究課題で計画研究を実施しています(http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/genetics/参照)。
「人類は、古くから様々な家畜を用いて種間・属間交配を行い、雑種強勢(ヘテロシス)効果を農業や生活の向上に役立ててきました。しかし、得られる雑種の多くは不妊や発育不全をともない、その障害は通常ヘテロ型の性染色体構成を持つ個体(哺乳類ではXY雄、鳥類ではZW雌)に顕著に表れます。この現象はHaldaneの法則 “When in the F1 offspring of two different animal races one sex is absent, rare, or sterile, that sex is the heterozygous [heterogametic] sex (異なる2種の動物間で得られたF1雑種で、一方の性が出現しなかったり、稀だったり、あるいは不妊である場合、その性はヘテロ接合型の性染色体構成をもつ) ”と呼ばれています。この法則は集団遺伝学者のHalldaneによって1922年に提唱され、遺伝学の分野で広く知られているにもかかわらず、その分子基盤はいまだほとんど解明されていません。さらに、ウマとロバの雑種であるラバとケッテイに見られるように、両親の雌雄の組み合せによって得られる雑種の表現型が大きく異なる現象が見られます。げっ歯類では、交配に用いる雄と雌の組み合わせを変えることによって、胎児や胎盤の発育に異常が生じることがあります。
これらの現象は、哺乳類ではPeromyscus属シロアシネズミとMus属ハツカネズミで報告されており、私たちは最近、Phodopus属のドワーフハムスターでも同様の現象を見出しました。私たちはこれまでに、これらのげっ歯類に見られる種間雑種の配偶子形成阻害は、減数分裂時の性染色体の対合異常が主たる原因であることを明らかにしてきましたが、その分子基盤はまだ不明のままです。一方、胎児や胎盤の発育異常にはエピジェネティックなゲノム不適合性が関与することが最近分かってきました。また、鳥類ではキジ目やガンカモ目の種間・属間雑種で多くの報告例があり、不妊や発育不全はZW型性染色体をもつ雌個体に顕著に表れますが、その原因についても何も知見が得られていません。
そこで、私たちは、2種類のげっ歯類(Mus属とPhodopus属)とキジ目、ガンカモ目鳥類における種間・属間雑種を対象として、異種ゲノムの不適合性によって引き起こされる雑種不妊と発育不全現象の遺伝制御機構とその分子基盤を解明することを目標に研究を進めています。哺乳類では、特にゲノムインプリンティングの視点から生殖隔離におけるエピジェネティックな遺伝子発現制御の関与を明らかにし、ゲノムインプリンティングの進化生物学的意義を明らかにすることを試みています。また、ゲノムインプリンティングが存在しない鳥類では、性特異的に生じる雑種の胚致死や発育不全に着目し、その遺伝的要因と分子・細胞学的メカニズムの解明を目指しています。
(詳しい研究内容の紹介はこちら)