脊椎動物における性染色体の起源とその進化過程、性決定機構の
多様性に関する研究


脊椎動物における性染色体構成と性決定様式は多様です。哺乳類の XY 染色体や鳥類がもつ ZW 染色体は、ともに形や遺伝子構成が大きく異なる染色体のペアですが、もとは相同な一組の常染色体に由来することが知られています(大野 乾 著「Sex Chromosomes and Sex-linked Genes」, 1967)。つまり、相同な染色体の一方に、性に特異的な機能をもった遺伝子が出現することによって、その染色体が一方的に退化し、その構造を大きく変えることによって、異なる機能をもつ性染色体のペアが生まれたと考えられています。羊膜類は、温度依存型の性決定様式(Temperature-dependent Sex Determination, TSD)と遺伝的な性決定様式(Genetic Sex Determination)をもっています(表1、図1)。また、GSDの動物の性染色体構成には、雄へテロ(XY)型と雌ヘテロ(ZW)型があり、形態的に未分化な性染色体から極端に退化したY, W染色体まで、その分化程度は動物の種類によって様々に異なります。脊椎動物がもつ性染色体の起源やその分化過程はまだ多くの謎に満ちており、興味は尽きません。また、性染色体の起源とその分化過程は生物の性決定様式と密接な関係をもっていることから、性染色体に連鎖する遺伝子群を同定し、性決定や性分化に関わる性染色体連鎖遺伝子の機能を解析することによって、性決定の分子メカニズムとその進化過程の解明に迫ることができます。

私たちは、これまでに、数多くの機能遺伝子の比較染色体マッピングを行い、性染色体の構造を比較することによって、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類がもつ性染色体は起源が異なり、脊椎動物の性決定様式は極めて多様性に富んでいることを明らかにしてきました。現在は、多くの種について性染色体の構造と機能を詳細に調べ、脊椎動物がもつ性染色体の起源を探るとともに、脊椎動物の性染色体が、共通祖先の相同染色体からどのような分子メカニズムによって、どのようなプロセスを経てXYあるいはZW染色体に分化してきたかを明らかにすることを試みています。また、性分化に関わる遺伝子の機能を調べることによって、両生類から哺乳類に至る性決定・性分化機構の分子基盤を明らかにし、その多様性と普遍性の解明にも取り組んでいます。(詳しい研究内容の紹介はこちら



↑表1 羊膜類における多様な性染色体構成と性決定様式



↑図1 羊膜類の系統関係と各分類群における代表的な核型、性決定様式と性染色体構成(羊膜類の性決定様式と性染色体の構成は多様であることがわかります。)