Ⅰ. 木材の材質を考慮した需給計画
1. 木材需給のシミュレーション
図1. 45年生スギ丸太
伊勢湾流域圏にはスギやヒノキを中心とした豊かな人工林が広がっている。試算によれば、流域圏の森林資源は現需要量の80%を占める輸入木材に頼らないで済むほどの十分な蓄積量を有していると見込まれる一方で、その蓄積量に関しては現状を正しく把握・評価できておらず、さらに多くの蓄積量が存在するとの指摘もある。
流域圏及び我が国の人工林の齢級構成はきれいな正規分布状をしているが、このことは若い人工林が少なく、近い将来、収穫が可能な人工林がなくなることを意味し、森林の持続性は維持できない。持続可能な森林のためには、収穫や間伐、植林をコントロールし、齢級構成の平準化を根気よく目指す必要がある。
このようなことから、都市木PRJでは流域圏内の森林資源の現状を把握し、将来にわたる木材供給能力を見積・評価すること、また、量だけでなく材料としての木材強度など材質分布にも着目し、都市における流域材の需要創出に関する持続可能なシナリオ作成に取り組んでいる。
そこで、豊田市内の標準的なスギ人工林より伐採した45年生スギ丸太の材質を調べた(図1)。試験本数は、1~3番玉268本(末口直径217.7±42.2mm)、4~5番玉239本(同137.9±14.3mm)の計507本である。材質評価として、応力波伝播速度、元口・末口直径、表面含水率、年輪幅などを測定した。その結果、応力波伝播速度は1~3番玉の方が4~5番玉より若干速いが、末口直径との間に相関は見られなかった。
これらのデータを基にしてモンテカルロシミュレーションにより供給(山)側のヤング率分布を推定した。一方、住宅メーカー4社から提供を受けた部材表を基に各種住宅の原単位(m³/m²)を求め、JAS規格および既往の強度データベースをもとに使用木材のヤング率を推定した。これよりヤング率を指標とする供給側と利用側の材質分布を比較すると、両者の間には差があり、メーカーハウス型住宅の要求性能が供給側の材質分布より高いことがわかった(図2)。
日本の森林の多くを占めるスギ、ヒノキの強度性能は一般に輸入木材に比べてそれほど高くはない。したがって、強度的に低質な材料を使いこなす工夫が必要である。そのためには、省エネで経済的で持続可能な建築のためのシンプルかつハイテクな木質構造(木造建築)を考える必要がある。日本の森林の現状を考えれば、低質材を如何に大量に使うかがポイントとなろう。
また、住宅の着工予測や森林資源の生育予測などを踏まえた量・質両面の将来予測シミュレーションを行い、森林管理と木材利用の適切なバランスを把握する必要がある。
図2. 供給側と利用側の材質分布
2. 地域産スギ・ヒノキ異樹種混合集成材の開発
地域産材の活用は適切な森林管理や地域雇用の促進につながるため、県内の人工林の大半を占めるスギおよびヒノキの有効活用が望まれる。このような状況は全国的に同様であり、スギやヒノキの異なる樹種特性を考慮し両者の特徴を活かした建材、すなわち異樹種混合集成材の開発が望まれる。都市木PRJは、流域圏産のスギおよびヒノキ材の有効活用策として、外層部にヒノキ、内層部にスギを配置した異樹種混合集成材の開発に協力した。流域圏産木材の強度分布を把握した上で、単一樹種では利用されにくい強度域に焦点を当て、これらを積極的に使用したラミナ構成の集成材を検討した。
(1) フィンガージョイントラミナの強度と曲げヤング率の関係
図3.MOE-UTS関係
流域圏産スギおよびヒノキ材ラミナの強度分布を把握するため、それぞれのフィンガージョイントラミナの各種強度性能を調べた。図3はラミナの曲げヤング率MOEと縦引張強度UTSの関係を示す結果の一例である。
(2) 集成材の実大強度予測係
図4.集成材の引張強度分布
ラミナ強度性能を基にラミナ構成を決定した集成材の実大強度性能と、その破壊条件との適合性を検討した。
異樹種混合集成材の強度性能について、破壊条件式との適合性を検討した。例えば、曲げ強度の破壊条件としては、No.1:複合応力の一次式、No.2:複合応力の二次式、No.3:引張応力のみ、No.4:最外層の曲げ(JAS)、No.5:圧縮側塑性+複合応力の一次式、No.6:圧縮側塑性+複合応力の二次式である。
集成材の曲げ荷重-たわみ曲線は、積層数によらず、破壊に至るまで概ね線形的に変形が進行しており、ブリットル型であった。試験に供した集成材はME95-F270を満足することを目標にラミナ構成を決定したが、全ての試験体でE105-F300の基準強度を上回った。破壊条件との適合性を検討した結果、例えばUTSの場合には、10層では破壊条件No.3と良好な一致を示した(図4)。
現段階では得られた強度分布について、最適な破壊条件の決定に至っていない。本結果は、実大強度の破壊条件は積層数により異なる可能性を示唆する一方で、破壊条件を検討するためには、ラミナ強度試験体の性状と実際の集成材に使用するラミナの性状が合致していること、また、ラミナの強度とMOEの相関性が求められることを示している。
木材には、
①生物資源である(ばらつきを有する、生産活動に制約がある)、
②形・大きさが限定されている、
③強い異方性を有する、
といった利用上厄介な特徴があり、利用拡大を推進するためには科学的手法による支援が必要不可欠である。
グローバルレベルで木質科学の解明に取り組み、成果を公表するとともに、蓄積された知見を地域社会へ積極的に還元していきたい。例えば、新開発の品質保証された名大発地域ブランド材としてスギ材の構造利用が容易となろう。
これにより、「川上~川下」連携を構築することで、流域圏の森林資源を安定供給し、産地からエンドユーザーに到る恒常的な材の流れを創出する。地域で共有可能な資源供給システムを構築することで、地域森林資源の競争力増強、企業間の過当競争による地域材のデフレ化阻止、顔の見える地材地建(≒地産地消)などの効果を期待したい。