マウス雑種強勢QTL(量的形質遺伝子座)の遺伝解析


研究の概要:

雑種強勢(ヘテローシスheterosis)は、動植物の育種改良において必須の遺伝現象である。しかし、ヘテローシスは、100年以上も前に発見されているにもかかわらず、その責任遺伝子は動植物において未だにクローニングされていない。我々は、これまでにマウスを家畜のモデルとして用いて、体重に関して雑種強勢を示す超優性QTL (量的形質遺伝子座quantitative trait locus)のファインマッピングに成功した。本研究では、この研究成果を発展させて、雑種強勢QTLの責任遺伝子の同定と分子基盤の解明を目指す。もし、雑種強勢に関わる責任遺伝子が同定できたならば、哺乳動物では世界初の快挙となり、新しい有用家畜品種の雑種強勢育種の基盤確立に貢献する。


もう少し詳細な研究内容:

雑種強勢とは、一般に、異なった品種や系統の掛け合わせにより仔の能力が両親の平均能力より優れていることをいう。ほとんど全ての家畜の経済形質は、雑種強勢を利用して生産されているといっても過言ではない。例えば、豚肉は、ランドレースや大ヨークシャー等の品種を三元または四元交雑することにより生産されている。鶏肉は、白色コーニッシュと白色プリマスロック品種間のF1雑種である。鶏卵も4つの原々種間の交雑鶏から生産されている。雑種強勢は、100年以上も前に発見され、家畜の育種改良において必須の遺伝現象であるが、その責任遺伝子は未だにクローニングされていない。

雑種強勢の成因には、主として以下に示す二つの仮説が今までに提唱されているが、未だにどの仮説が正しいのか決着がついていない。
 ・ ゲノムワイド優性説(異なる染色体上に存在する複数の遺伝子座の優性遺伝子がヘテロ型として集合することにより雑種強勢が生じる)
 ・ 超優性説(単一遺伝子座の一つの超優性遺伝子により雑種強勢が生じる)

上記の仮説は、主として、動植物の農業上重要な経済形質について、全染色体を対象としたゲノムワイドQTL解析結果によって支持されている。一方、我々の以前の研究では、ゲノムワイドQTL解析ではなく、コンジェニック系統を用いた解析により(Ishikawa, J. Hered., 100:501, 2009)(図1)、雑種強勢QTL (Pbwg1.10 と命名)の存在する染色体領域を物理的に狭めている点で異なる。したがって、本研究では、雑種強勢QTLの責任遺伝子の同定に向けて、世界より一歩リードしているといえる。

もし、雑種強勢の責任遺伝子が同定できた場合、世界初の快挙となるとともに、上述の超優性説を支持することになる。したがって、本研究成果により、雑種強勢の分子メカニズムの解明につながるとともに、新しい有用家畜品種の雑種強勢育種の基盤確立に貢献できる。