動物遺伝制御学研究室
Laboratory of Animal Genetics
Laboratory of Animal Genetics
マウス肥満抵抗性QTL(量的形質遺伝子座)の遺伝解析
現代社会における食事の欧米化による高カロリー食の過剰摂取や運動不足といった生活習慣は、中高年世代のみならず、若年世代からの肥満症を増加させている。肥満は、これまでに糖尿病、高血圧、動脈硬化、脂質異常症などの生活習慣病の成因に非常に深く関与している。また、肥満は、複数の遺伝子座(量的形質遺伝子座quantitative trait loci)が関与し、環境の影響を強く受ける多因子性疾患である。したがって、食生活や運動などの生活習慣の改善に加え、脂肪蓄積に関わる新規遺伝因子の探索・同定とその分子基盤の解明は、肥満の克服・予防のための非常に重要な研究課題である。
1994年のレプチンの発見以来、脂肪細胞から生産・分泌される生理活性物質の同定・機能解析、脂肪細胞の分化・増殖機構およびモデル動物を用いた病態解析などが精力的に行われている。近年、ゲノムワイド関連解析のメタ解析が実施され、体脂肪量と肥満の尺度であるボディマス指数(BMI: body mass index)に関連する32カ所のゲノム領域が明らかにされ、エネルギーバランスの神経調節因子が体重調節において重要な役割を担っていることが示唆された。一方、体脂肪分布の尺度であるウエスト・ヒップ比(WHR)に関連する13カ所のゲノム領域を新たに明らかにされ、WHRの関連には性差があることが明らかとなった。これらの研究の成果を総合すると、WHRとBMIに関連するゲノム領域はほとんど重複しておらず、両者の調節経路が異なっていることが示唆される。したがって、脂肪蓄積のメカニズムや食欲・エネルギー代謝に関する分子機構は複雑で、全容の解明には未だに到達していないといえる。
我々は、これまでに、野生マウスの遺伝子プールから生後の体重と成長に関与する24個の新規QTLを13本の染色体上に位置づけることに成功した(Ishikawa et al., Mamm. Genome 11:824, 2000; Ishikawa and Namikawa, Genes Genet. Syst. 79:27, 2004; Ishikawa et al., Genet. Res. 85:127, 2005)。検出されたQTLsの中で、最も大きな表現型効果をもつ第2染色体のQTL領域をC57BL/6J(B6と略す)近交系に導入したコンジェニックとサブコンジェニック系統を樹立し、表現型解析を行ったところ、通常の低脂肪食および高脂肪食下において、白色脂肪組織重量が統計学的に有意に軽く、血中グルコースとトリグリセライド濃度が低いサブコンジェニックマウスを発見し、この肥満抵抗性を示すQTLを8.8 Mbという限られた染色体領域内に位置づけることに成功した(図1、表1)(Mollah and Ishikawa, BMC Genet.11:84, 2010)。
そこで、我々は、野生マウスの遺伝子プールからオリジナルに開発した肥満抵抗性マウスを用いて、肥満抵抗性QTLの候補遺伝子を探索する。将来的には、責任遺伝子の同定と分子基盤を解明することにより、ヒト肥満の消滅に貢献したい。
