研究内容

園芸作物(果樹・野菜・花き)の生産性や品質向上のための,生理学・生化学・分子生物学的研究,バイオテクノロジー,遺伝子組換えやゲノム編集などの分子育種,特に果実の成長と物質蓄積に関する研究,新奇形質の花き作出に向けた研究を行っています.

園芸作物のオミクス

園芸作物のオミクス

園芸作物(野菜・果実・花)の形質(形・色・味・香り・機能性など)は,ゲノム上の遺伝子がmRNAに転写された後,タンパク質に翻訳され,酵素やトランスポーターなどのタンパク質の働きにより代謝が動くことで,決まります.遺伝子・mRNA・タンパク質・代謝・形質を網羅的に研究する手法が “オミクス”です.私たちは,オミクスを園芸作物の研究にいち早く取り入れ,園芸作物の形・色・味・香り・機能性の鍵となる遺伝子・mRNA・タンパク質・代謝・形質を特定し,その情報を元に園芸作物の分子育種に取り組んでいます.

新規質量分析(AI-MS)を活用した迅速・簡便な生体成分の分析

新規質量分析(AI-MS)を活用した迅速・簡便な生体成分の分析

植物は100万種類もの代謝物(成分)を蓄積し,どのような代謝物が蓄積するかで,作物の味・香り・色・機能性が決まります.代謝物の分子を区別し,正確に分析する技術が質量分析(MS)で,LC -MSやGC-MSがよく用いられます.しかしながら,LC-MSやGC-MSの分析は,抽出・前処理・LCやGCなどのクロマトグラフによる分離など,煩雑で手間と時間を要します.私たちは,これらのステップを全て省き,サンプルから揮発する香気成分(揮発性有機化合物:VOC)をそのままリアルタイムに質量分析する技術APCDI-MSや,試料に極細針を刺して数分で分析する技術PESI-MSという,新しい質量分析技術(AI-MS)を活用し,植物や昆虫などの生体成分の迅速・簡便な分析を行っています.

マタタビ属植物における“ネコにマタタビ”原因成分の蓄積

マタタビ属植物における“ネコにマタタビ”原因成分の蓄積

ネコがマタタビにじゃれる“ネコのマタタビ反応”は,ネコがマタタビに含まれるネペタラクトールという成分を身体にまとわりつけて,蚊を忌避する行動であることが明らかになりました(リンク).それでは,マタタビは何の目的で,ネペタラクトールを合成・蓄積するようになったのでしょうか?私たちは,AI-MSやオミクスを駆使し,マタタビ属植物におけるネペタラクトールの合成・蓄積・放出機構を明らかにすると共に,マタタビが何の目的でネペタラクトールを蓄積しているのかの生理的意義を明らかにしようとしています.

園芸作物のゲノムワイド解析

園芸作物のゲノムワイド解析

園芸作物を含め,多くの生物の全ゲノム配列が解読され,遺伝子の情報が公開されています.しかしながら,それら遺伝子の情報を遺伝子ファミリーごとに整理し,個々の遺伝子に意味づけを行わなければ,せっかくのゲノム情報を活かすことができません.我々は,トマト,ブドウ,アサガオなどの園芸作物の,トランスポーターや転写因子の遺伝子ファミリーの情報を整理して,意味づけを行い,育種や生理学的研究に必要な基盤情報を提供しています.

ゲノム編集技術を用いたトマトの分子育種

ゲノム編集技術を用いたトマトの分子育種

2012年にCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集が発表され,ゲノム編集技術が爆発的に広がりました.私たちはCRISPR/Cas9の発表の2年後の2024年に,トマトのゲノム編集に着手し,葉から果実への糖(スクロース)の転流にブレーキをかけるインベルターゼインヒビターを,ゲノム編集で機能破壊することにより,果実の大きさや収量をほとんど変えずに,糖度を30%上昇させたトマトの開発に成功しました.また,細胞周期にブレーキをかける転写因子MYB3Rの機能を,ゲノム編集で機能破壊することにより,果実を長細くし,ユニークなピーナッツ型のトマトの開発にも成功しています.

接ぎ木の分子機構の解明と高糖度トマトの生産

接ぎ木の分子機構の解明と高糖度トマトの生産

接ぎ木は,2種類の植物(台木=根,穂木=地上部)を組み合わせ,2種類の植物の長所を良いとこ取りして栽培する技術で,丁寧で手先の器用な日本人が発達させた日本が誇る農業技術で,今,世界に広がっています.しかしながら,接ぎ木がつながったり,つながらなかったり,また台木と穂木が影響を及ぼし合う現象のメカニズムは,ほとんど明らかになっていません.私たちはオミクスを駆使し,接ぎ木の接着の親和性や台木と穂木のコミュニケーションの研究を行っています.トマトの糖度を2倍にする台木の開発にも成功し,その実用化も進めています.

花弁特異的プロモーターの開発と花きの分子育種(遺伝子組換え)

花弁特異的プロモーターの開発と花きの分子育種(遺伝子組換え)

今までにない美しい色の花,珍しい形の花,鑑賞期間の長い花持ちの良い花の開発を,遺伝子組換えにより行っています.これまでに,花色が緑で鑑賞期間の長いアサガオやペチュニア,鮮やかな発色のベタレインを蓄積するペチュニアの開発に成功しました.遺伝子組換えには,形質を司る遺伝子だけでなく,遺伝子が発現する場所とタイミングを制御するプロモーターと,転写・翻訳を上昇させるエンハンサーやターミネーターが必要です.私たちは,花弁だけで遺伝子を発現させる花弁特異的プロモーターの開発や,転写・翻訳を上昇させる発現ベクターの開発に取り組んでいます.

無菌培養を必用としない新しい遺伝子組換え・ゲノム編集技術

無菌培養を必用としない新しい遺伝子組換え・ゲノム編集技術

植物の遺伝子組換え・ゲノム編集はどのように行うのでしょうか?シロイヌナズナの遺伝子組換えには,フローラルディップという簡単な方法がありますが,他の植物の遺伝子組換え・ゲノム編集を行うには,手間のかかる無菌培養が必要です.私たちは,葉の切り口から不定芽が発生する過程で遺伝子組換えを起こさせ,無菌培養を必要とせずに遺伝子組換え植物を得る方法の開発に着手しました.

園芸作物の時計遺伝子の機能と花成制御

園芸作物の時計遺伝子の機能と花成制御

現代の農業において,園芸作物(花や野菜)を周年供給することは重要な課題です.このため我々が望むタイミングで花を咲かせたり,咲かせなかったり,あるいは果実を実らせたりするために,作物にそれにあった季節を感じさせる必要があります.私たちは,生物が季節を感じる仕組みである“時計遺伝子”に着目し,時計遺伝子の発現リズムを,ケミカルコントロールやゲノム編集により制御し,望んだ時期に花を咲かせたり,果実を実らせることを目指しています.

果実の液胞への物質蓄積機構

果実の液胞への物質蓄積機構

果物はなぜあんなに甘く美味しいのでしょうか?果実の果汁は液胞に蓄積しています.液胞には,味に関わる糖や有機酸・アミノ酸だけでなく,着色に関わるアントシアニン,栄養に関わるビタミン類,機能性に関わるポリフェノール類などが高濃度に蓄積しています.このため,私たちは『果実の液胞は生物界の中で最も美味しく,美しく,健康に良いオルガネラ』と考え,液胞への物質蓄積に働く,プロトンポンプ,アクアポリン,糖輸送体,有機酸輸送体,二次代謝物輸送体(ABC輸送体,MATE)に着目して,研究を行っています.

ブドウの機能性成分の蓄積機構

ブドウの機能性成分の蓄積機構

ブドウは生食に加えワインの醸造にも必要な,世界で最も産業的な重要性の高い果樹のひとつです.私たちはブドウの果皮や培養細胞における二次代謝産物の合成を,オミクスを駆使して研究し,着色に関わるアントシアニンや機能性成分として注目されるレスベラトロールの合成・蓄積とその制御を研究しています.近年,地球温暖化によるブドウの着色不良が世界的な問題となっており,その研究も行っています.

ナシ果実の石細胞の合成機構

ナシ果実の石細胞の合成機構

ナシの果実にはジャリジャリとした特殊な食感を引き起こす“石細胞”が存在します.石細胞はリグニンが蓄積する特殊な細胞で,日本では石細胞の食感を好む人が多いですが,中国では嫌いな人が多いです.この石細胞の形成メカニズムと制御を,南京農業大学との共同研究で進めており,樹から果実に流れてくる石細胞誘導因子をメタボロミクスで明らかにすると共に,石細胞誘導化合物のケミカルスクリーニングとケミカルバイオロジーを行っています.