生物材料工学研究室
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名古屋大学大学院
生命農学研究科
生物圏資源学専攻
生物材料工学研究室

〒464-8601
名古屋市千種区不老町
生命農学研究科
A館東研究棟386号室


トピックス

天野山金剛寺金堂 平成大修理における木材強度調査

 天野山金剛寺の平成大修理にあたり木材の強度調査を行なう機会を得ることができた.天野山金剛寺は大阪府河内長野市に所在し,市街地の南西方約5kmの天野街道沿いに伽藍を開く真言宗御室派の由緒ある寺院である.寺伝によれば奈良時代に僧行基によって開創され,平安末期に阿観が再興拡充したと伝えられている.境内一円は国の史跡に指定され,彫刻,絵画,工芸,書籍,文書など数多くの文化財が蔵されている.築地塀に囲まれた境内には,国の重要文化財に指定された金堂,多宝塔,鐘楼,楼門,食堂,御影堂が立ち並び,金堂北側の築地塀を挟んで塔頭の摩尼院書院が建っている.平成大修理における修復工事では金堂,多宝塔,鐘楼3棟の保存修理を行い,金堂は半解体修理(柱や大きな梁を残した状態まで解体して修理)を行う.修復は平成21年11月に着手し,平成29年9月に完了の予定である.なお,この調査は文化財構造計画と文化財建造物保存技術協会の共同で行った.

   

 金堂は桁行7間,梁間7間の仏堂で,前面に1間の向拝,背面に3間の庇が付き,周囲に縁を巡らせた入母屋造り,本瓦葺の建物で,堂内に本尊の丈六大日如来像,左右に不動明王と降三世明王像が安置されている.内陣柱の根巻蓮華座には建立年代とみられる鎌倉時代後期の元応2年(1320)の墨書が記されている.その後桃山時代の慶長期(1605頃),江戸時代の元禄期(1695頃)に改造を含む修理が行われたことが部材に記された墨書や文書などによって知られている.明治33年(1900)に文化財に指定された後,昭和29年に屋根葺替の修理を受けているが,未だ本格的な解体修理は受けていない.この調査では非破壊的に部材の強度性能を推定するため応力波伝播速度を測定し,これと木材強度に関するデータベースを用いるシミュレーション法によりヤング係数および基準強度の推定を行った.調査対象の使用部位,推定樹種および材料番号は次の通りである.柱:ヒノキ3体(材料番号:1〜3),ケヤキ3体(番号:4〜6);足固貫:元禄材(ヒノキ)3体(番号:7〜9),慶長材(マツ)3体(番号:10〜12);虹梁:中世材(マツ)3体(番号15〜17),慶長材(マツ)3体(番号:13, 14, 18);小屋大梁:(マツ)1体(番号:19).

  

 我が国には古来より現在に至るまで木材を構造材料として利用してきた長い歴史があり,特に伝統的構法による建築物には多くの寺院をはじめとする木造古建築がある.これらの建築物には,台風・地震など幾多の災害を乗り越えて現代までその姿を伝えているものが多く,我が国が世界に誇ることのできる文化的財産である.当研究室では,環境保全と伝統文化の伝承の両観点から主に古民家・古寺院を対象として,伝統的構法を用いた建築物において古来より受け継がれてきた改修システムに,現代人が会得している科学的な力学評価を組み合わせ,より安全性の高い確かなシステムとして次世代へ引き継ぐための取り組みを行っている.これまでに,伝統的木造建築物を保存・継承し,そこに使われている古材を継続使用するための可否判断に関して,実大材の強度性能を,応力波を用いて推定したヤング係数を基に,その曲げ強度を推定・評価する方法を提案してきた.これによれば,古材の強度的性状を,解体前の構造体のままの状態で非破壊的かつ簡便に評価することができる.形状が不定形で欠損等も含まれる古材の強度性能は,誤差を含む可能性は免れないが,次のようにして推定することができる.材は,解体前の建物に組み込まれた状態,または解体後の地上に降ろされた状態のいずれであっても構わない. @応力波伝播時間測定器を用いて材中を伝播する応力波の速度を測定し,この値をもとにしてシミュレーション法により材のヤング係数(Es)を推定する. A材の欠損状況を調べ,断面の低減係数(Kr)を算出する. B推定したヤング係数(Es)より基準強度(Fb)を求める. C基準強度(Fb)と断面の低減係数(Kr)よりその材の推定強度(= Fb×(Kr)2/3)を算出する.この値は,その材に最低限保証される強度値と評価することができ,設計強度として扱うことができる.

木材強度の非破壊推定に関する研究論文

  • Yamasaki, M.; Sasaki, Y.: Determining Young’s modulus of timber based on a strength database and stress wave propagation velocity. Part 1: A new estimation method of Young’s modulus employing Monte Carlo simulation, Journal of Wood Science, 56(4), 269-275, 2010
  • Yamasaki, M.; Sasaki, Y.; Iijima Y.: Determining Young’s modulus of timber based on a strength database and stress wave propagation velocity. Part 2: Influence of the reference distribution database on the determination, Journal of Wood Science, 56(5), 380-386, 2010
  • 佐々木康寿,山ア真理子,吉野安里,住岡雅将,棚橋秀光,大岡 優,鈴木祥之:伝統的建造物保存に向けた古材の強度性能推定,歴史都市防災論文集 Vol. 6, pp.321-328, 2012


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