根分泌物の寄与率

水稲根に由来する有機物の発生メタンへの寄与率を推定するため、ポット栽培した水稲からのメタン発生量を測定するとともに、栽培期間中数回同化箱内で13CO22時間同化させ(図4参照)、その後発生するメタン中に占める13CH4の割合を時間を追って測定した結果、作付け全期間におけるその寄与率は、化学肥料区で29-39%、稲わら区で22であった(図5参照)。

 また、メタン発生量に占める光合成産物由来メタンの割合は、化学肥料区では7月下旬から8月初めには52-110%、8月中・下旬では28_36%、9月中旬では13-17%であり、稲ワラ施用区では6月下旬4%、7月下旬>31%、8月中旬30%、9月中旬14%であった。なお、水稲を暗条件下で2時間13CO2に暴露した場合光合成が進行しないため、その後の13CH4の放出は観察されなかった。また、光合成により有機物へと同化された二酸化炭素が再びメタンとなって、大気に放出されるまでにわずか1.5時間しか要しないことも判明した。

 

 

以上の結果は、水稲根圏に生育するメタン生成菌の関与を推察させる。また、硫酸還元菌が水稲根圏でメタン生成菌と競合関係にあり、メタン生成を抑制していることから、硫安、尿素を追肥として土壌に表面散布した区と葉面散布した区を設けてメタン発生量を比較した結果、葉面散布区は土壌表面散布区に比べ、それぞれ45%、20%メタン発生量の減少するのが観察された。本結果は、根圏に生育するメタン生成菌の制御が水田からのメタン発生量の抑制に効果的であることを示唆するものである。

  1. Minoda, T. and Kimura, M. : Contribution of photosymthesized carbon to the methane emitted from paddy fields. Geophys. Res. Letters, 21, 2007-2010 (1994)
  2. Minoda, T., Kimura, M. and Wada, E. : Photosynthates as dominant source of CH4 and CO2 in soil water and CH4 emitted to the atmosphere from paddy fields. J. Geopys. Res., 101(D), 21091-21097 (1996)
  3. Kimura, M., Murakami, H. and Wada, H. : CO2, H2 and CH4 production in rice rhizosphere. Soil Sci. Plant Nutr., 37, 55-60 (1991)
  4. Kimura, M., Asai, K., Watanabe, A., Murase, J. and Kuwatsuka, S. : Suppression of methane fluxes from flooded paddy soil with rice plants by foliar spray of nitrogen fertilizers. Soil Sci. Plant Nutr., 38, 735-740 (1992)

水田から発生するメタンの起源、メタンの土壌中での動態にもどる

1-1. 土壌有機物の寄与率

1-2. 根分泌物の寄与率

1-3. 施用有機物(稲ワラ)の寄与率

1-4. 発生したメタンへの稲ワラ各成分の寄与率の推定

1-5. 土壌有機物、根分泌物、施用有機物(稲ワラ)の各寄与率