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空気中の窒素を肥料とする窒素固定植物の創出

 窒素固定は、空気中の窒素分子(空気の78%も占める)を多くの生物が利用できる窒素肥料成分に変換する重要なプロセスです。この奇跡的な能力(生物窒素固定)は、ごく一部の微生物だけに限られています。イネやトウモロコシなどほとんどの作物は、充分な収穫量を得るためにたくさんの窒素肥料を必要とします。そのため、農家は大量の窒素肥料を購入して田んぼや畑にまいています。窒素肥料は、空気中の窒素を原料として工場でハーバー・ボッシュ法(工業的窒素固定)によってつくっていますが、その過程で大量の石油エネルギーを消費しています。光合成微生物であるシアノバクテリアには、窒素固定能力をもつものがあり、光合成で大量のエネルギーをつくり出して、空気中の窒素を肥料成分に変えているのです。言うなれば、「窒素固定の工場」(実際はニトロゲナーゼという酵素)を自分の細胞の中にもっているということです。作物も光合成生物ですから、シアノバクテリアのもつ「窒素固定の工場」を、作物の細胞の中で稼働させることができれば、作物自身がもつ光合成のエネルギーを使って、空気中に無尽蔵にある窒素をみずからの肥料として利用できる作物を作り出せるにちがいありません。そんな夢の“窒素固定”作物ができれば、大量の石油エネルギーを節約することができ、窒素肥料に依存している現在の農業のあり方を根本的に変えるかもしれません。当研究室は、夢の“窒素固定”作物をつくり出すことを最終目標として、シアノバクテリアの窒素固定の研究を展開しています。


図1. 二酸化炭素だけでなく窒素源も空気から取り入れる窒素固定作物

文献

Tsujimoto, R., Kamiya, N., and Fujita, Y. (2014) Transcriptional regulators ChlR and CnfR are essential for diazotrophic growth of nonheterocystous cyanobacteria. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 111, 6762-6767.

Tsujimoto, R., Kamiya, N., and Fujita, Y. (2016) Identification of a cis-element in nitrogen fixation genes recognized by CnfR in the nonheterocystous nitrogen-fixing cyanobacterium Leptolyngbya boryana. Mol. Microbiol. 101, 411–424.

Tsujimoto, R., Kotani, H., Yokomizo, K., Yamakawa, H., Nonaka, A., and Fujita, Y. (2018) Functional expression of an oxygen-labile nitrogenase in an oxygenic photosynthetic organism. Sci. Rep.. 8, 7380.