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研究材料の紹介:シアノバクテリア

シアノバクテリアとは?

 シアノバクテリア(cyanobacteria,藍藻(もしくはラン藻)とも呼ばれます)は、酸素を発生する光合成(酸素発生型光合成)を行う原核生物です。酸素発生型光合成は、植物の光合成と基本的に同じものです。シアノバクテリアの祖先は30~25億年前に地球上に出現し、初めて酸素発生型光合成を始めました。この光合成では水を電子供与体とする(水分子から電子を奪い、その副産物として酸素ができます。)ことができるため、水と光があればエネルギーが得られることとなり、当時の地球上で大繁殖したようです。その結果、それまでの酸素を含まない嫌気的な大気に酸素を供給することとなり、徐々に(実際には酸素レベルが急上昇した時期もありましたが)現在に近い酸素を豊富に含む好気的大気に変えていったと考えられています。シアノバクテリアは、進化の過程で、形態的にも代謝的にもきわめて多彩な能力を有する原核生物の大きな一グループを形成するようになったようです。また、真核細胞の祖先との内部共生によって真核細胞に取り込まれ、植物の葉緑体の祖先となったと考えられており、原核生物から植物に至る光合成の進化を考える上で、非常に重要な生物です。

 形態的に、大まかには単細胞性と糸状性に分けられ、糸状性の種には細胞分化の能力を有するものがあります。また、窒素固定を行う能力を有する種と有さない種、完全暗所でもグルコースなどを使って従属栄養的に生育できる能力がある種と光合成的な生育しかできない種など、代謝能力は多様です。また、代謝能力と細胞の形態とは必ずしも一致しません。

 当研究室では、主な研究材料として、単細胞性のSynechocystis sp. PCC 6803と糸状性のLeptolyngbya boryanaを研究目的に応じて使い分けています。


Synechocystis sp. PCC 6803

 光合成生物として世界で初めてゲノムが解読されたシアノバクテリアです。全生物としても4番目にゲノム決定されたことになります。自発的にDNAを取り込む性質をもっており、DNAと混合するだけで容易に形質転換体を得ることができます。このため、ゲノム情報を基盤として、シアノバクテリアのモデルとして広く研究材料として使われています。


Leptolyngbya boryana (旧学名Plectonema boryanum)

 一様な細胞から成る糸状体を形成する糸状性シアノバクテリアで、窒素固定能をもっています。また、グルコースなどの糖を利用して、光合成ができない完全な暗所でも従属栄養的に生育することができます。電気穿孔法による形質転換系を、藤田自身が1990年頃に確立しました (Fujita et al. 1992、Tsujimoto et al. 2015)。また、最近、私たちはそのゲノムを高精度で解読しました (Hiraide et al. 2015)。


文献

Fujita, Y., Takahashi, Y., Chuganji, M. and Matsubara, H. (1992) The nifH-like (frxC) gene is involved in the biosynthesis of chlorophyll in the filamentous cyanobacterium Plectonema boryanum. Plant Cell Physiol. 33, 81-92.

Tsujimoto, R., Kotani, H., Nonaka, A., Miyahara, Y., Hiraide, Y. and Fujita, Y. (2015) Transformation of the cyanobacterium Leptolyngbya boryana by electroporation. Bio-protocol, 5, 24, e1690.

Hiraide, Y., Oshima, K., Fujisawa, T., Uesaka, K., Hirose, Y., Tsujimoto, R., Yamamoto, H., Okamoto, S., Nakamura, Y., Terauchi, K., Omata, T., Ihara, K., Hattori, M. and Fujita, Y. (2015) Loss of cytochrome cM stimulates cyanobacterial heterotrophic growth in the dark. Plant Cell Physiol., 56, 334-345.