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                                   Laboratory of Animal Genetics and Breeding
量的形質の遺伝的基盤の解明に関する研究:
 ユニークなQTLの発見からQTGさらにはQTNの同定を目指して



 私たちの周囲を見渡すと、実に様々な形質(trait)がある。 図1に示したように、例えば、転んでできた外傷、一腹産子数、ニワトリの産卵数、マウスの体重、ヒトの生活習慣病(肥満、高血圧、糖尿病など)、動物の毛色が挙げられる。 外傷は、次世代に遺伝しない100%環境要因によって生じた形質である。 逆に、毛色や高等学校の生物学の教科書に載っているエンドウ豆の形質は100%遺伝要因によって決定されている。 100%遺伝要因によって決定されている形質を、質的形質(qualitative trait)またはメンデル形質(Mendelian trait)と呼ぶ。 一方、体重、身長、農業上重要な経済形質(一腹産子数、ニワトリの産卵数、ウシ枝肉重量、ブタ皮下脂肪厚など)やヒト生活習慣病(肥満、高血圧、糖尿病など)のような形質は、遺伝要因と環境要因さらに両要因の相互作用が様々な割合で関与している。 このような形質を量的形質(quantitative trait)と呼ぶ。量的形質は一般的に連続的な正規分布に近似できる表現型のバラツキ(変異)を示す。 したがって、量的形質は、交配実験を行った場合に、質的形質のように3対1とか1対1に表現型が明確に分離しない。 これは、量的形質が遺伝子の効果の小さい複数の遺伝子座(量的形質遺伝子座(QTLs: quantitative trait loci)と呼ぶ)によって支配されて環境の影響を受けるとともに、QTLsと環境との相互作用さらにQTLs間の相互作用(エピスタシスと呼ぶ)が関与しているためであると考えられている(図2)。 質的形質を支配する遺伝子座は1つまたは少数で、環境の影響をほとんど受けない点が、量的形質と明確に異なっている。







  上述したように、量的形質の表現型は連続的に分布するため、その遺伝解析は容易ではなかった。 しかし、20世紀後半から、様々な動物においてDNAマ−カ−に基づく高精度の遺伝的連鎖地図が構築されるとともに統計遺伝学が発達し、量的形質に関与する個々のQTLのおおよその染色体上の位置やQTLの効果を推定きるようになった(これをQTL解析と呼ぶ)。 実験動物の代表的存在であるマウスでは、様々な量的形質に関わる多数のQTLsが染色体上に位置づけられている。 しかし、QTLの責任遺伝子(量的形質遺伝子(QTG: quantitative trait gene)と呼ぶ)が同定されたものは限られている。 さらに、原因となるDNA変異(量的形質ヌクレオチド(QTN: quantitative trait nucleotide)と呼ぶ)まで同定されたものはさらに限られている。 したがって、量的形質の遺伝的基盤(図2)の分子機構の全体像は未だによく理解されておらず、その解明が今世紀の生物学における最重要課題の一つとなっている。
 当研究室では、パイロットモデル動物であるマウスの体重、肥満とその関連形質についてQTL・QTG・QTN研究を行っている。 図3に、QTL解析から、QTGの同定、さらにQTNの同定に至までの道筋をフローチャートとして示したので、参照して欲しい。 体重関連形質は、ヒトのメタボリックシンドロームの発症に関連するとともに、家畜の経済形質としても重要である。 小型で世代回転が速く、遺伝的に均一な近交系が利用でき、様々なゲノム情報や解析ツールが開発・蓄積されているマウスを利用し、量的形質の複雑な遺伝的基盤(図2)の共通基本原理をひも解き、その成果をヒトや家畜に応用することは、ヒトの健康増進や畜産物の生産性向上に大いに貢献できるであろう。 近年、ニワトリを家畜のモデルとしてQTL研究を開始した。別のページに、現在取り組んでいる研究課題について概説する。

 



“QTL解析の基礎理論と方法”についてもっと知りたい人は、NAGOYA Repositoryの以下のサイトからPDFファイルをダウンロードしてお読みください。


“量的形質の遺伝的基盤の複雑さ”についてもっと知りたい人は、NAGOYA Repositoryの以下のサイトからPDFファイルをダウンロードしてお読みください。

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