本文へスキップ
                                   Laboratory of Animal Genetics and Breeding
アジアにおけるジャコウネズミ(スンクス)野生集団の集団遺伝学的系統解析

 ジャコウネズミ(Suncus murinus)(図1)は食虫目トガリネズミ科に属する小型哺乳類で、東南アジア〜南アジアの熱帯亜熱帯地域を中心に東アフリカから太平洋諸島まで広く分布・生息しています。ジャコウネズミはインド亜大陸が起産地と考えられていますが、インド洋〜東シナ海沿岸の広範囲な地域に人の移動や交易に伴い分布域を広げたとされています。

 これまでのmtDNA多型解析と血液タンパク質酵素多型の解析の研究から、ジャコウネズミ地域野生集団は大きく東南アジア・島嶼タイプと南アジア大陸タイプの2つに分けられ、さらにマイクロサテライトマーカーを用いた多型解析の結果、各地域集団は4つに分けることができ、そのうちの1つ(クレードD)が南アジア大陸グループで、このグループは他のグループから大きく隔たっており、多様性も高いことが判明しました(図2)。

 また、マイクロサテライトマーカーのSTRUCTURE解析による結果から、クラスタリングはΔK=7のときが最適であり、南アジア大陸部は単一的な構成となっているのに対し、東南アジア・島嶼部は共通のクラスターが多く分布し、さらに日本の集団は特異的な構成を示しました(図3)。
 これらのことから、ジャコウネズミの野生集団は初期の段階で南アジア大陸部と東南アジア・島嶼部に分かれ、東南アジア・島嶼部では現在でも交流が行われていることが示唆されました。

 現在、これまでに検索されていない西アジアから東アフリカ地域のジャコウネズミの捕獲調査を進めており、これらの集団の遺伝学的特性を比較解析することで、ヒトの交易とそれに伴うジャコウネズミの移動の関連性を検証しています。