光合成は、光のエネルギーを生物が生きるためのエネルギーに変えるすばらしい能力です。では、光合成を行って生きるために必要な遺伝子は何個でしょうか?こんな単純な問いに対しても実は明瞭な答えがまだありません。シアノバクテリアは「酸素発生型光合成を行う原核生物」と定義され、植物と同じ光合成を行う最も単純な生物です。当研究室では、シアノバクテリアを、暗闇の中で長期にわたって(長いもので10年以上)培養を続けています。暗闇では光がないので光合成はできませんが、グルコースを与えているのでこれをエネルギー源として従属栄養的に生きることができます。このような光合成の必要がない暗闇の環境に慣れてしまったシアノバクテリアは一体どうなってしまうでしょう? まず、暗い所でもグルコースを使って生育する能力が向上していきます。その一方、なんと光合成で生育する能力を失っていきます。光合成ができないシアノバクテリアは、定義から “シアノバクテリア”とはもはや呼べないかもしれません。長期にわたって光合成が必要のない暗闇に適応を進めたせいで、ゲノムに突然変異が蓄積し、光合成で生育する能力を失ってしまったようです。当研究室では、このような光合成ができなくなったシアノバクテリアのゲノム解析を行って、どの遺伝子の変異によって光合成ができなくなってしまったのかを明らかにしつつあります。このようなデータを蓄積することで、生物が光合成で生きていくために必要な遺伝子のセットを明らかにしたいと考えています。
Hiraide, Y., Oshima, K., Fujisawa, T., Uesaka, K., Hirose, Y., Tsujimoto, R., Yamamoto, H., Okamoto, S., Nakamura, Y., Terauchi, K., Omata, T., Ihara, K., Hattori, M., and Fujita, Y. (2015) Loss of cytochrome cM stimulates cyanobacterias heterotrophic growth in the dark. Plant Cell Physiol. 56, 334-345.