研究テーマ

研究内容

光周性に関する研究

 春になると鶯がさえずり、ツバメが飛来するように、さえずり、渡り、繁殖などの動物の営みは毎年正確に繰り返されています。これら動物の行動の季節変化については紀元前300年代の哲学者、アリストテレスの著書「動物誌」Historia Animaliumにも記述されていますが、アリストテレス以来、2,000年以上経った現在も、生き物がいかに季節を感知し、四季の変化に適応しているかは明らかにされていません。私たちはこの長年の謎の解明に取り組んでいます。
私たちを取り巻く環境は日々変化していますが、多くの生物は日の長さ(光周期)をカレンダーとして利用しています。気温や降水量も季節によって変動しますが、年によって暖冬、冷夏、空梅雨など、ばらつきがあり、信頼性が高い情報とはいえません。それに比べ、春分、夏至、秋分、冬至は毎年決まった時期に訪れるように、光周期は極めて精度の高い情報を提供しており、生物が日長の情報をカレンダーとして利用しているのは理に適っています。このように光周期の変化に応じて生物の生理機能が変化する性質は光周性と呼ばれています。

私たちは日長の変化に対して急速かつ劇的に反応するウズラを用いて、鳥類が日長の変化を感知して繁殖活動を開始する仕組みを解明してきました。また、ウズラで明らかになった仕組みがマウス、ラット、ハムスターやヤギなどの哺乳類にも共通していることも明らかにしています。さらに最近ではサケ科魚類のヤマメにおいて季節を感知するセンサーとして働く脳領域を明らかにすることにも成功しました。繁殖活動の制御は食糧生産に直結していることから、動物たちが季節を読み取る仕組みの全容の解明を通して生物学の発展と食料生産の向上に貢献したいと考えています。

また客員部門を務める基礎生物学研究所の研究室(季節生物学研究部門)では、日本の様々な地域で採集された野生メダカ集団や遺伝子改変メダカを用いて、動物が日照時間を測定する「臨界日長」の仕組みや温度の変化をカレンダーとして季節の変化に適応する「温周性」仕組みの解明に取り組んでいます。

概日リズムに関する研究

 私たちは身体の中に約24時間の内因性のリズムを刻む概日時計(体内時計)を持っています。概日時計は身体のほとんどの細胞に備わっており、睡眠覚醒リズムだけでなく、代謝やホルモン分泌など様々な生理機能に関与しています。

動物は環境の明暗周期(光)や温度変化の情報を読み取って、自身の概日時計を調節しています。動物統合生理学研究室では主にマウスを用いて、動物がどのように光や温度の日内変動を感知して体内時計を調節しているかについて研究を行っています。

また、トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)の研究室では、ホタルの発光レポーターによって、1日に一度光るヒト由来の細胞を用いて、概日時計を調節する画期的な生命機能分子「トランスフォーマティブ生命分子」の開発に取り組んでいます。またメダカやゼブラフィッシュの行動を制御する薬の探索も行っています。ITbMでは世界屈指の合成化学者と計算科学者と力をあわせて、化学のちからで概日時計の新たな仕組みの解明や、概日時計に制御されるヒトの体内時計や動物の季節繁殖を制御する新しい分子の探索を行っています。

動物の先天的発声に関する研究

 私たち人間は言葉を話します。動物も様々な発声をしますが、多くの発声様式はヒトの言葉とは異なります。例えば、雄鶏はコケコッコーと鳴きますが、ヒトの言語学習とは異なり、親鶏に教えてもらわなくても大人(成鶏)になるとコケコッコーと鳴くことができるようになります。これは「コケコッコー」が遺伝的にプログラムされている先天的発声だからです。私たちはこの先天的発声の制御機構に興味を持って研究を行っています。ニワトリが時を告げるのは世界共通ですが、ニワトリがなぜ朝鳴くのか、すなわち、「夜明け(光)」を感知して鳴くのか、それとも自身の体内時計によって鳴くのかは明らかにされていませんでした。私たちは最近、ニワトリのコケコッコーが体内時計によって制御されていることを明らかにしました。現在はコケコッコーという先天的発声の分子基盤の解明にも取り組んでいます。

ニワトリの大きさを調節する成長ホルモンに関する研究

私たちは国内に維持されている体の小さいニワトリ3品種の原因遺伝子を調査してきました。その矮小化の原因は成長ホルモン情報を正常に受容できない、すなわち成長ホルモン受容体に異常があることを確認しました。成長ホルモンは個体の正常な成長を司るホルモンであり、主に下垂体前葉から分泌されます。鳥類であるニワトリを含む、哺乳類から魚類においてその正常な成長を促すホルモンとして知られています。実際、成長ホルモンが減少すると体重は軽くなり、身長も低くなります。ヒトの低身長症、末端肥大症や巨人症は成長ホルモンが正常値より低かったり高かったりすることで起こります。マウスやサカナを成長ホルモン過剰状態にするとその個体は数倍の大きさになることが知られています。家禽においても同様の効果が得られることが期待できます。これまでの調査で、その作用は骨伸長を伴う個体の正常な成長に関与するだけでなく、糖、脂質、タンパク質の代謝、生殖能力獲得、生体防御にかかわる自然免疫系、獲得免疫免系にも関与する可能性が見いだされました。ニワトリはB.C.6,000年頃から家禽化(人によって飼育されること)が始まったとされており、現在500品種を超えるとも言われています。ニワトリは食糧として、愛玩動物として長らく人と密接な関係をもち、日本ではオナガドリなどの天然記念物指定されている品種も存在し、その形態的変化は同じ種であるとは思えないほど多様です。現在使用されている肉用鶏では60日齢で3kgを超えるものもいますが、チャボなど愛玩鶏では半年を経ても600gにみたないことが知られています。これらの品種はセキショクヤケイからつくられたと考えられており、その潜在能力は計り知れません。成長ホルモンの働きは多岐にわたっており、その働きをうまく調節することで餌を食べる量は少ないが体の大きなニワトリ、産卵成績向上のため短期間で性成熟できる、手のひらにのるような小さなかわいいニワトリをつくれるかもしれません。成長ホルモンの研究をとおして、ニワトリに秘められた潜在能力の発揮を模索しています。


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