植物遺伝育種学研究分野

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中園グループ

現在、以下のようなテーマで研究を進めています。

(1) イネ科植物の根の通気組織形成機構の解明

トウモロコシなどのイネ科植物では、土壌に過剰な水分が含まれた状態で栽培すると根の皮層に(破生)通気組織が形成されます(図1-1)。

通気組織の主な役割は、根の基部から先端部へと酸素を供給することであり、その発達程度が耐湿性の強さを決める要因の一つとなります。イネ科植物の通気組織は、皮層組織特異的に細胞が崩壊することによって形成されることから、遺伝子によって制御されたプログラム細胞死であると考えられています。プログラム細胞死は遺伝子の発現を伴った積極的な細胞死で、植物では導管形成、アリューロン層の消失、子葉鞘の裂開などの器官形成における細胞死や、病原菌感染の際に起こる過敏感細胞死がよく知られています。動物のプログラム細胞死では、その一種であるアポトーシスについて盛んに研究が行われ、その分子メカニズムの大要が明らかになってきています。その一方で植物のプログラム細胞死の分子機構については未だ不明な点も多いというのが現状です。 私たちは、トウモロコシやイネの根の通気組織形成におけるプログラム細胞死に着目し、これが植物の耐湿性に寄与する機構に関する知見を得ることを目的として研究を行っています。

トウモロコシの根の通気組織形成に関わるプログラム細胞死は、皮層組織で特異的に起きます。その一方で過湿処理による低酸素ストレスは皮層組織だけではなく根の組織全体に影響を及ぼし、広範な遺伝子の発現量を変化させることが予想されます。したがって根の組織全体を対象に遺伝子発現解析を行った場合、皮層組織以外の組織で発現する遺伝子が含まれることにより、探索の精度が低下してしまう可能性が考えられます。そこで、Laser Microdissection(LM)法を利用して、皮層組織のみを単離することにしました(図1-2)。LM法とは、切片にした標本の特定部位の周囲にレーザー光をあてて切除し、目的の組織を純粋に単離することが可能な技術で、単離した組織から抽出したRNAやタンパク質を用いて組織特異的な発現解析を行うことができます(図1-3)。LM法で単離した皮層組織からRNAを抽出して、マイクロアレイ解析を行い、通気組織形成に関与すると考えられる遺伝子を多数同定しました。

その結果、通気組織形成過程で、活性酸素種(O2.-)発生の鍵酵素NADPH oxidaseの植物ホモログであるRespiratory burst oxidase homologRBOH)遺伝子の発現が誘導され、病害応答において活性酸素種(H2O2)の除去を担うことが報告されているMetallothioneinMT)遺伝子の発現が抑制されることが明らかになりました。さらに、LM法で単離した中心柱、皮層、表皮・外皮を含む外層において遺伝子発現解析を行った結果、RBOH遺伝子の発現誘導は明確な組織特異性を示さなかったのに対して、MT遺伝子の発現は皮層組織特異的に抑制されることが分かりました。これらの結果より、皮層組織ではMT遺伝子の発現が抑制された結果、RBOHによって生成された活性酸素種を消去できなくなり細胞死が起きるのに対して、他の組織(中心柱、表皮・外皮を含む外層)ではMT遺伝子の発現抑制が生じないために、MTによって活性酸素種が速やかに消去され、細胞死が起きないというモデルを提唱しました(図1-4)。現在、このモデルの検証を進めています。



(2) イネの根からの酸素漏出を防ぐバリア(ROLバリア)の形成機構の解明

畑作物が過湿環境で障害をうける原因の一つに、根端に酸素が効率よく供給されないために根の活力が落ちることがあります。一般的に、コムギなどの畑作物 は、イネと同様に、酸素を輸送するための通気組織を根に形成することができますが、酸素が通気組織を介して根端へ移動する過程で、その大部分が通気組織をとり囲む表皮・外皮から土壌へ漏出してしまいます(この酸素漏出をRadial O2 Loss(ROL)と呼んでいます)(図2-1)。

その結果、成長点のある根端部へ供給される酸素量が極端に減少するため、根の伸長が停止し、障害が生じてしまいます。一方、耐湿性の高いイネは、根の基部の通気組織の外側に、過湿環境に誘導的に酸素の漏出を抑制するバリア(ROLバリア)を形成することによって、根端まで効率よく酸素を供給し、過湿土壌で根を伸長させることができます(図2-1)。このように植物の耐湿性には根端への酸素運搬が必須でありますが、これには通気組織の形成だけでは十分でなく、ROLバリアを形成して根端まで効率的に酸素を供給することが重要であるといえます。

このように、ROLバリアは耐湿性において重要な形質であるにも関わらず、検出方法の煩雑さなどから、その発見から約40年が経過した現在でもその 構成物質や形成に関わる遺伝子は特定されておらず、そのほとんどが未解明のままです。私たちは、根のROLバリア形成部位をLM法によって単離して、マイクロアレイ解析を行うことによりROLバリア形成中に外皮周辺組織特異的に発現する遺伝子を多数同定しました(図2-2)。現在、これら遺伝子の機能解析を行い、ROLバリア形成に関わる遺伝子の同定を試みています。


(3) ダイズの二次通気組織の形成機構の解明

日本のダイズ栽培において、8割以上が水田転換畑で行われています。水田は、水を貯める必要があるため、基本的に排水性が悪い土壌です。そのため、畑作物であるダイズを水田転換畑で栽培すると湿害が生じ、収量の低下がしばしば問題になります。そのため、ダイズの耐湿性向上は重要な農業課題となっています。

ダイズの湛水土壌への適応形質の一つに二次通気組織の形成があります。湛水処理を施したダイズは、地上部から地下部へ酸素を供給するために、胚軸、根、根粒といった器官に新たに通気組織を形成します(図3-1)

これは、イネやトウモロコシが根の皮層組織にプログラム細胞死によって形成する一次通気組織とは異なり、皮層組織の内側に新たに形成されることから二次通気組織と呼ばれています。この二次通気組織は、水面の少し上まで形成されるため、酸素供給の入り口として非常に重要な組織になります(図3-2)。

このように、二次通気組織が生物学的にどのような役割を持っているか、また形態学的にどのように発生するかは報告されてきました。しかし、二次通気組織がどのようなメカニズムにより発生するかは全く知見がありませんでした。そこで、私たちはこの二次通気組織の形成メカニズムを解明するために解析を行っております。

私たちは、これまでに暗所では二次通気組織が形成されないことを発見し、そこから、光合成産物であるショ糖が重要であることを明らかにしました。興味深いことに、胚軸にHeat-girdlingと呼ばれる手法により環状剥皮を施し木部組織以外を壊死させると、処理した部位の上側でのみ二次通気組織の形成が誘導されることがわかりました(図3-3)。これに加え様々な実験結果から、葉における光合成由来のショ糖が、篩部を介して輸送されることが二次通気組織の形成のために重要であることが明らかとなりました.現在、さらなる詳細なメカニズムを明らかにするために、遺伝子発現解析などを中心に行っています。



(4) トマトにおける木部組織の発達機構の解明

植物が質の良い実をたくさんつけるには、光合成産物の転流だけではなく、養水分の供給も必要不可欠です。私たちの研究室では、収量性の異なるトマト品種Aと品種Bを比較したところ、標準品種Aに比べ、多収品種Bでは、胚軸や茎における木部組織が10%程度大きく発達していることがわかりました(図4-1)。木部組織は、根から吸収した養水分を葉や果実などに供給するパイプとしての役割を果たしています。そこで、私たちはこの木部組織の発達の差が二つの品種の収量性の差に影響を及ぼしているのではないかと考え、研究を行っています。この研究を通して、高品質・多収のトマト品種の作出を目指しております。

 

(5) イネの鉄過剰耐性機構の解明

 本研究は、インドネシアの洪水常襲地における作物生産の安定化に向け、問題が顕著化している冠水、塩および酸性土壌による被害を軽減することを目指した研究プロジェクトの1テーマとして進めています。将来的に、コメ生産の盛んなインドネシア国内に広がる生産ポテンシャルが高い沼沢地を対象に、前述のストレス耐性品種の選定およびストレス耐性機構の解明を通して、コメの生産安定化に貢献したいと考えています。

インドネシアの多くの沼沢地では、酸性土壌条件下での鉄過剰ストレスが水稲栽培の深刻な問題となっています。そこで私たちは、鉄過剰耐性イネ品種の選抜し、耐性にかかわる有用QTLを同定し、インドネシアの主力品種であるCiherangに導入することで鉄過剰耐性を持つCiherangを作出し、インドネシアのコメ生産に貢献したいと考えております。

植物における鉄過剰の症状として、地上部や地下部の生育阻害はもちろん、葉などにブロンジングと呼ばれる赤褐色の病斑が現れることがよく知られているます(図5−1).

そこで私たちの研究室では、数多くのイネ品種の中から鉄過剰環境でも生育阻害やブロンジングが観察されない品種Aと品種Bを選抜しました。(図5−2).

これらの品種のイネの葉における鉄含量を測定したところ、鉄過剰水耕液で栽培した際に、非耐性品種であるCiherangと鉄過剰耐性品種Aの間では大きな差はありませんでしたが、鉄過剰耐性品種Bでは有意に鉄含量が低下していました(図5-3).これらのことから鉄過剰耐性品種AとBで耐性機構に違いがある可能性が考えられました.

現在これら2つの品種を用いてQTL解析を行い鉄過剰耐性に関わるQTLの同定を行っています.