1.アミラーゼ遺伝子の転写誘導機構

 アミラーゼはデンプンの分解産物であるマルトオリゴ糖から生じる糖転移産物イソマルトースにより生産誘導される。アミラーゼ遺伝子群の転写活性化因子であるAmyRは通常は細胞質に局在しているが、イソマルトース刺激で速やかに核に移行し転写を活性化する。核移行後、AmyRはリン酸化され分解される。

 誘導物質依存的な核移行を司る分子メカニズム、リン酸化と転写活性化や分解との関わりの解明が現在の研究目標である。

 

 

2.キシラナーゼ遺伝子の転写誘導機構

 キシラナーゼ生産誘導に関わる転写活性化因子はXlnRで、キシランの分解産物の一つであるD-キシロースに応答して転写を活性化する。AmyRと異なり、XlnRは常に核に局在しており、また予備的検討では常にDNAに結合している。XlnRAmyRと同様に誘導物質依存的なリン酸化を受けるが、その後AmyRは分解されるのに対しXlnRは安定に存在する。また、D-キシロースが枯渇するとリン酸化レベルが低下する。これらは誘導物質依存的なXlnRのリン酸化がXlnR活性を制御することを示唆しており、これを支持する実験的証拠も得られている。リン酸化依存的に何らかのコファクターと相互作用すると考えられるため、その同定を目指している。

 




.セルラーゼ遺伝子の転写誘導機構

 セルラーゼ遺伝子の発現誘導に直接関わる転写活性化因子はClrB/ManRMcmAである。ClrB/ManRAmyRXlnRと同様に真菌特異的なZn2Cys6型のDNA結合モチーフを持つ因子であるが、McmAは真核生物に保存されたMADS boxタンパク質で、他の生物の情報では多様な細胞機能に関わるとされる。McmAClrB/ManRDNA結合をサポートするが、この因子間相互作用が誘導物質依存的であるかどうか、またMcmAの活性が環境条件で制御されているかどうかについては不明である。また、McmA非依存的なClrB/ManRによる転写制御もあり、さらにこれらの転写因子に加え、ClrAClbRと呼ばれる因子もClrB/ManRの上流でセルラーゼ遺伝子の発現制御に関わる。セルラーゼ遺伝子の制御メカニズムは、多糖分解酵素遺伝子の中でも最も複雑なものとなっているが、これを何とか解明することを目標として研究を進めている。


4.カーボンカタボライト抑制(CCR

 CCRとは資化しやすい炭素源が存在する環境では資化しにくい炭素源の利用に関わる遺伝子群の発現が抑制される現象をさす。糸状菌では転写抑制因子CreAおよびそのオルソログがCCRを司るとされてきた。しかし、アミラーゼの生産抑制はCreAに依存するのに対し、セルラーゼ生産は依存していない。最近、セルラーゼ生産はCreA非依存的、PkaA依存的なCCRにより制御されることを見出した。PkaAはプロテインキナーゼAcAMPに応答して標的タンパク質をリン酸化する酵素である。現在、PkaAの上流遺伝子の遺伝子の解析を進めており、下流遺伝子の同定が次の目標である。



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