![]() <はじめに> 生物は、速やかに環境変化を認識し適応するための遺伝子発現制御システムをもっている。その中でも、環境センサーであるヒスチジンキナーゼと下流制御因子レスポンスレギュレーター間のリン酸基転移を介した情報伝達機構は、バクテリアから酵母、カビなどの真核微生物、さらには植物まで広く保存された環境応答システムである。モデル糸状菌Aspergillus nidulansには15種類のヒスチジンキナーゼと4種類のレスポンスレギュレーター、その間で機能するリン酸基転移中間因子YpdAが存在し、糸状菌の環境応答、生育分化に重要な働きをしている。 |
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<テーマ1> ヒスチジンキナーゼの中でもNikAは重要で、その遺伝子を破壊すると菌糸伸長が異常になり、糸状菌特異的な農薬(イプロジオン、フルジオキソニル)に耐性を示す。われわれは、NikAがどのように菌の正常な生育に機能しているかをNikAの特徴的なタンパク質構造に注目して解析している。この解析は同時に、糸状菌の農薬感受性とNikA機能との関係も明らかにすることができ、新規農薬の開発に有益な情報が得られると期待できる。 <テーマ2> リン酸基転移反応は環境センサーであるヒスチジンキナーゼの情報伝達の手段であり、精製したタンパク質を用いてその反応を観察することで直接的にヒスチジンキナーゼの機能を明らかにするために有効である。HysAはAspergillus属にのみ存在するヒスチジンキナーゼでの1つである。われわれは、HysAを大腸菌で大量発現させ、単一なタンパク質に精製したものを用いて、ラベルされたATPの存在下、HysAの自己リン酸化とYpdAへのリン酸基転移を糸状菌では初めて成功することができた。さらに、酸化還元状態がHysAのリン酸化活性に影響を与えることがわかり、これらの結果をもとに、糸状菌の生育におけるHysAの役割が明らかになりつつある。 <最後に> われわれは、ヒスチジンキナーゼを中心に情報伝達因子の機能を解明し、糸状菌環境応答の全体像を理解すること試みている。それらの情報を統合して、環境ストレスに強い糸状菌株を構築し、さらには培養効率を高めることで、糸状菌を用いた物質生産の向上につなげたい。 |
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