研究紹介

重力屈性 ~なぜ茎は上を、根は下を向くのか?~

芽生えた場所で一生を過ごす植物は、いつ花をつくるかというような器官形成の調節や、いつどのような方向に伸びていくかというような成長の調節をしながら、環境の変化を察知しそれに応答しながら生きています。植物が、光、重力、水分、接触などの刺激の方向を認識し、それに応答して成長の方向を調節する仕組みを「屈性」といいます。植物の根は地中に、茎は上に向かって伸びていきます(図1)。このような成長反応を重力屈性といいます。重力屈性は昔から研究されてきたとても興味深い現象ですが、その分子メカニズムを遺伝子やタンパク質の機能からや読み解く試みが始まったのは最近のことです。私達は、植物がどのようにして重力の方向を知るのか、またどのようにして成長の方向を変えるのか、その分子メカニズムの解明を目指しています。シロイヌナズナを用いて、多数の重力屈性異常突然変異体を単離し(図2)、その原因となる遺伝子を突き止め、遺伝子がコードする蛋白質の機能を様々な角度から研究しています。

図1. シロイヌナズナ花茎の重力屈性反応

野生型のシロイヌナズナの花茎を水平に倒すことで重力刺激を与え始め、2時間の反応を示した100倍速のタイムラプスムービー。植物とカメラは暗箱内に入れ,植物が感じないとされる850nm以上の光を使って撮影してあるので、光の影響はないと考えてよい。

図2. 重力屈性異常突然変異体の花茎の重力屈性反応

図1と同じ方法で植物を撮影した。変異体では重力屈性が低下していることがわかる。

図3 シロイヌナズナの花茎と根における重力感受細胞

シロイヌナズナ花茎の組織構造は、通常外側から1層の表皮(ep)、約3層の皮層(co)、1層の内皮(en)が同心円柱状に配置し、さらにその内側に維管束を含む中心柱がある。内皮細胞(右上)には重力方向にアミロプラスト(A)が観られる。内皮細胞は大きく発達した液胞(V)によりその体積のほとんどを占められる。アミロプラストは周囲を液胞に取り囲まれている。根の根冠には層状のコルメラ細胞があり、アミロプラストを含んでいる。コルメラ細胞の液胞は比較的小さい(右下)。EZ; 伸長領域。
(Morita and Tasaka, Curr. Opin. Plant Biol., 2004 より)

変異体を使った研究から、シロイヌナズナがどこで、どのようにして重力の方向を認識するのかが、徐々に解ってきました。茎は内皮細胞という円柱状に配置する細胞で、根はコルメラ細胞という根の先端に位置する細胞で重力方向の変化を感じ取ります(図3)。どちらの細胞にも、アミロプラストと呼ばれるデンプンを蓄積した特殊な色素体が含まれており、これが比重差で重力方向に沈むことが重要だと考えられています。一方、最近の私達の研究から、細胞内の構造は根と茎とでは大きく異なり、アミロプラストの動き方、つまり重力を感じる仕組みにもかなり違いがあることが解ってきました。地上で重力屈性の研究を行なうには、「刺激(重力)の方向を自由に変えることはできない」という難しさがありますが、横倒し顕微鏡や遠心顕微鏡などの独自の顕微鏡システムを作り、生細胞イメージングを行なっています。細胞内小器官をGFPを用いて可視化し、野生型と変異体との比較を行い、重力感受の場でどのようなことが起こっているのか、リアルタイムで観察しています。

現在も、新たな変異体を探したり、ゲノミクス・プロテオミクスというモデル植物ならではの手法を用いたりして、新しい重力屈性関連遺伝子を単離しています。このようにして得られた遺伝子の機能を明らかにし、相互の関連を遺伝学的、細胞生物学的、生化学的な手法で、様々な角度から調べることにより、重力屈性の分子メカニズムの全体像を明らかにしたいと考えています。

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