高等動物における翻訳(タンパク質合成)制御の解明

研究内容

 RNA-タンパク質巨大複合体、細胞質リボソーム(cytoplasmic ribosome)はすべての生物においてタンパク質合成に不可欠であり、大腸菌等の原核生物をモデルとして数十年に渡って研究されて数多くの知見が蓄積されてきました。したがって、リボソームに関する重要な問題はすでに解決したと思われているかもしれません。しかしながら、たとえば酵母、ショウジョウバエ等の実験から、真核生物のリボソームタンパク質遺伝子の欠失は多くの場合個体の生存能に深刻なダメージを与えることが示されているものの、個々のリボソームタンパク質の翻訳における機能やその機能制御のメカニズムについての全体像の理解にはまだ至っていません。また最近の研究から、ある特定のリボソームタンパク質の異常が遺伝病や発がんに関与していることが示され、リボソーム病(ribosomopathy)と総称されていますが、それぞれの発病メカニズムは不明なままです。以上を踏まえて私たちは、哺乳類の増殖・分化・死におけるリボソーム中心とした翻訳制御の理解を目標としています。

 巨大なリボソームを含む翻訳系については、近年まで解析の対象として難しく、応用という点からも限界がありました。たとえば、既存のin vitroや各種細胞を用いたタンパク質合成系は、翻訳系をいわばブラックボックスのまま利用しています。私たちはげっ歯類リボソームのプロテオミクス的解析により、組織や細胞内環境によってリボソームの構成因子が一部変化する「リボソームの構造不均一性」を示しました。そして、同定された新規不均一性因子を独自の切り口として哺乳類における翻訳制御メカニズムの解明を進めています。こうしたタンパク質合成系の研究は、タンパク質の構造・機能研究に有効なだけでなく、同合成系を組み込んだ培養細胞等を利用することにより有用タンパク質(医薬品、食品等)の大量生産につながると期待されます。

 がん細胞においては増殖が亢進しており、多様な新規合成タンパク質が大量に必要になります。したがって、翻訳を司るリボソームをいかに合成するかということが、がん細胞の増殖にとって重要と推定されます。換言すると、この過程をターゲットとして、がんの診断や治療法を新たに導くこと、さらにはこの「増殖亢進」のメカニズムを巧みに制御することにより、効果的な物質生産系が構築可能と考えられます。私達は、がん細胞において高発現しているビスチン(bystinの研究過程で、このタンパク質のリボソーム生合成との関連を見出しました。現在この分子を中心に、翻訳系を支えるリボソーム生合成の解析にも取り組んでいます。



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