抗生物質

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抗生(antibiosis)」は、生物間の競争もしくは拮抗現象で、これに関与する物質がいわゆる「抗生物質」です。従来、抗生物質は微生物間に働く阻害物質を指す言葉で、微生物の生き残り戦略に重要な物質と考えられますが、ペニシリンやセファロスポリンのようにたまたま人類に多大な貢献をしてきたものが多数あります。最近では、抗生物質の生産者は動植物まで含まれ、阻害の対象も生細胞や酵素まで拡大解釈がされています。私達の研究室では抗生物質に関して次のような課題で研究に取り組んでいます。


(1)抗真菌性物質

(2)抗腫瘍性物質

(3)その他生理作用物質

(4)抗生物質生合成遺伝子解析


 これら生物活性物質は、従来より探索が進められてきたものですが、その探索材料の8割は放線菌と糸状菌で占められています。私達はこれら有用物質の構造に新規性・多様性を求めるため、探索材料をできるだけ特徴的なものに限定して研究を進めています。主なものは次の2つです。


(1)希少微生物(粘液細菌、水生不完全菌)

(2)海洋生物


 粘液細菌は、ほとんどの人が初めて耳にする微生物名では無いでしょうか。自然界には、従来の技術では培養できない微生物が99%を占めると言われています。粘液細菌はこうした難培養性微生物の一種ですが、分離・培養技術の進歩により少しずつ培養できる種が増えています。しかし,まだごく限られた研究グループでしか扱えないのが現状です。粘液細菌の一種から発見されたエポチロンという抗生物質は、抗癌剤タキソールと同じ作用機構(微小管の安定化)を有し、しかも多剤耐性癌細胞に対する有効性と高い溶解性から、現在、米国で臨床実験が進められています。エポチロンの発見により粘液細菌はようやく有用物質の優れた探索材料として認知されるようになってきました。我々は最近、粘液細菌よりいくつかの抗真菌性物質を発見しています。また、ポリケチド型の抗真菌物質について、生合成遺伝子のクローニング、異種発現による効率的生産を目指しています。


 水生不完全菌は渓流の落ち葉などにひっそりと生育する真菌で、これも培養が容易ではないため化学成分の研究があまり進んでいません。われわれは民間企業と協力して、植物疫病菌に阻害効果のある物質をスクリーニングし、高い確率で新規抗生物質を発見しています。


 海洋生物はもう一つの重要な機能物質探索源です。海洋天然物化学はおよそ四半世紀ほどの歴史の浅い分野で、最近になり抗癌剤候補などがいくつか現れ、有用物質素材として注目されています。我々は海洋生物を材料に上記の活性を有する化合物の探索を進めています。現在、ソフトコーラル由来の抗腫瘍性物質、ヒトデ由来の神経突起伸長活性物質、抗真菌物質スクリーニングなどの課題を進めています。