はじめに

研究室のミッション

食料経済学研究室では、主に農業経済学と食料経済学に依拠し、国内外の農業をめぐる資源・環境問題、農業生産の技術的・経済的発展、食料が加工・流通などの食品産業を経由して最終消費者に至るプロセスを教育研究の対象としています。さらに、農業や食料と密接に関係する歴史・文化や制度・政策を分析に組み込むことによる高度な教育・研究を目指しています。また、国際協働に基づく教育研究活動の推進にも力を入れています。

(1)食料・農村政策の国際比較

世界の食料価格の高騰や日本の農業従事者の高齢化が進む中で、安定した食料・農業政策が求められている。食料・農業政策はしばしば政治的な力関係に左右され、特定の利害関係者に寄り添うバイアスを伴うこともある。長期的で国民的な視野に立った政策のデザインを目指すとき、食料・農業政策の国際比較から多くの教訓を得ることができる。同じ先進国陣営であるヨーロッパの共通農業政策との比較研究を進めるとともに、モンスーンアジアの風土を共有する東アジアの政策研究者との交流を深めている。また、研究の蓄積に基づく知見・見解については、政府の公式会合における発言やマスコミへの取材協力などのかたちで社会に発信している。

(2)電子商取引を利用した農水産物マーケティングの日中比較

近年、農水産物流通においても、その比重が高まりつつある電子商取引について、卸売市場流通体系などの既存の流通他系が整備されている日本と、卸売市場流通などが発展途上にある中で電子商取引が急速に拡大している中国を対象として、農水産物における電子商取引の特徴を明らかにするとともに、その発展の背景にある農水産業経営や農水産物流通の実態と、電子商取引の発展が農水産業や農水産物流通体系に与える影響を実証的に比較分析する。

(3)食品安全確保に係る法制度の設計

食品偽装事件や食中毒事件など食品企業の不祥事の頻発や遺伝子組換え技術、ナノテクノロジーといった新技術の登場、福島第一原発事故に伴う食品の放射性物質汚染の発生をはじめとして、昨今、食の安全性が関わる問題は枚挙に暇がない。このような食環境のもと、消費者は日々どのように食品を選択すればよいか?また、国はどのような食品安全基準を整備し、どのように企業を監視すべきか?さらには、企業はどのようにしてコンプライアンス(法令遵守)をはかれるよう、従業員をコントロールすべきか?これらの課題は、社会科学領域の研究によりメスを入れなければならない。そこで、本研究室では、経済学、統計学そして心理学を活用した調査や実験を行い、得られたデータの分析結果をもとに、さまざまな食品安全問題に対する経済効率的な答えを探し出す研究に取り組んでいる。

(4)地産地消運動の展開モデルの構築(→写真:野菜直売所(モクモク元気な野菜塾市場))

農産物流通が広域化し、生産と消費のつながりが希薄化するとともに、安全性に対する信頼の揺らぎも大きくなっていく。地産地消運動の推進は、信頼性を高める方法の一つであるが、生産履歴の記帳や販売網の整備など課題も多い。
地産地消運動の展開と定着、その効果を定性的・定量的に分析を進める一方、安心・安全を担保する一手法としての情報ネットワークとそのコーディネート機能にも焦点を当て研究を進めている。

(5)農村構造の変化と土地資源・水資源管理(→写真:再生した畑での山菜作り(揖斐川町))

都市化や過疎化、高齢化に加え、農産物貿易交渉の終局は今後の農業・農村を大きく変えていくと予想される。とりわけ遊休化した土地や水等の重要な地域資源は、どのように有効に利活用されていくのかということが、今後明らかにすべき重要な課題となっている。
水資源については、これまで公的・共的・私的管理の実態を整理してきた。今後遊休化する水及び水利施設の利活用や管理主体の再編について研究を進めている。
遊休農地(耕作放棄地)は、農水省が平成20年度調査に基づき、農業的利用できる土地とできない土地に振り分け、前者の活用促進を課題としている。
人的資源(リーダー及び活動組織)の有無が活動の成否を左右することは明らかにしたが、遊休農地の利用主体・利用方法は、自然的・社会経済的な地域条件差があり一様ではない。遊休農地の発生要因と存在状況、利活用の形態を実態調査に基づき整理するとともに、遊休農地の利活用に向けた課題を明らかにする研究を進めている。