1)土壌有機炭素(腐植物質)の長期動態の解明

  
 土壌圏を中心とした炭素サイクルを理解し、制御するうえで、土壌有機物の化学構造と安定性(滞留時間)との関係は欠くことのできない情報です。土壌有機物の主成分である腐植物質は、植物体成分、菌体成分、堆厩肥などから、生化学反応、化学反応、燃焼反応によって生成する暗色無定形の高分子物質群であり、酸・アルカリに対する溶解性の違いに基づいて、フミン酸(“腐植酸”と同義)・フルボ酸・ヒューミンの3画分に分類されます。腐植物質には平均滞留時間が1000年を越える難分解性のものも含まれます。特に、フミン酸については暗色の度合いが強い(黒色度が高い)ものほど土壌中で安定と考えられていることから、黒色度と生成後年数(14C年代)、構造特性(特に分解されにくいと考えられる縮合芳香環構造)との関係を解析することで、その土壌中における長期的動態の解明を試みています。また、温暖化の進行が土壌炭素循環に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、異なる温度下における腐植物質の分解速度と構造特性との関係を調べています。そのほか、中国浙江省において、水田としての利用歴(〜2000年)が土壌の炭素蓄積と肥沃性に与える影響を調べています。


火山灰によって隔離された黒い深層土壌を解析に利用する。




フミン酸の平均14C年代とX線回折11バンド解析に基づく各サイズ(La, nm)炭素網面の相対含量。古いものほどサイズの大きい炭素網面を多く含んでいることが分かる。




14C年代を測るタンデトロン加速器質量分析計
HVEE4130-AMS
(名古屋大学年代測定総合研究センター)





2)土壌中における炭化物の動態と炭素蓄積への寄与

  
  
 植物炭素を分解されにくい形態で土壌に施用して、土壌炭素貯留量を増大させることは、大気中の二酸化炭素を減らし、地球温暖化を減速させる方策のひとつです。環境中に普遍的に存在する炭化物はその有力な材料候補ですが、炭化物の土壌中における動態はまだよくわかっていません。そこで、各種土壌中の炭化物含量、炭化物の化学構造と土壌中における分解速度との関係、炭化物の畑圃場への施用が土壌炭素蓄積量、各種温室効果ガス発生量、作物生育に与える影響を調べています。




竹炭施用畑(愛知県大府市)における温室効果ガスフラックスの測定。


畑地からの二酸化炭素(CO2)フラックスの変動(↓は化肥・厩肥・炭施用日)
厩肥(10 t ha-1)を施用すると化肥区よりもCO2発生量が高くなるが、炭(20 t ha-1 )を添加してもそれ以上増大しない(炭の無機化はほとんど起こらない)。





3)溶存有機物の構造と機能・動態−土壌から海へ

  
 河川流域土壌中で生成した水溶性有機物の一部は、土壌溶液中に浸出し、溶存有機物(Dissolved Organic Matter; DOM)として河川へ流出し、海へと運ばれます。その過程でDOMが分解されると、構成元素である窒素やリン、硫黄が放出され、特に貧栄養な水環境においては、水生生物の重要な養分となります。また、DOMのうちフルボ酸など高い錯形成能を持つ物質は、鉄や銅などの微量元素を河口域、沿岸域の生態系に届ける役割をもつとされています。しかしながら、これらDOMの機能や環境中における分解速度はDOMの化学構造に依存し、DOMの河川への供給量や組成、化学構造は、集水域環境(気候、地形、土壌型、植生・土地利用など)によって差異があると予想されます。本研究分野では、河川上流域における主要なDOM供給源である森林についてその植生の違いが河川に流出するDOM、DOM-Fe錯体の量やDOMの錯形成能に与える影響を調べています。また、河川下流域における主要なDOM供給源である湿地から流出するDOMの組成・構造特性と錯形成能や生物分解性、光分解性との関係を、異なる気候区分に属する湿地について包括的に調べています。




熱帯(マレーシア)泥炭湿地から河川に溶出したDOMが海に入る様子。
着色はフルボ酸による。



異なる気候帯に属する湿地河川水から調製したDOMのXPS N1s スペクトル。
各ガウス曲線の面積比から、いずれの試料もペプチド/アミドNが主要なN形態であるが、Leban川は末端アミノNも多く、ペプチド鎖長が短いことが推察される。



青森県むつ市での河川水の採水。






4)熱帯泥炭湿地における持続的農業利用技術の構築

  
 熱帯泥炭湿地の農業利用は、増加し続ける人口に食料とエネルギー源を供給する有力な手段です。しかしながら、湿地を畑地や樹園地として利用するためには十分な排水が必要であり、その結果、急激な地盤沈下、泥炭の分解と炭素の放出、土壌肥沃度の低下が起こることが懸念されます。サゴヤシ(Metroxylon sagu Rottb.)は高地下水位下の泥炭土壌でも生育が可能な珍しい高デンプン生産植物です。本研究分野では、熱帯泥炭湿地における持続的農業利用としてサゴヤシ栽培を位置づけるために、マレーシアにおいて、サゴヤシ栽培系における炭素・窒素の循環、肥料成分の挙動、土壌肥沃性や温室効果ガスフラックスの変化等を調べ、環境に対する負荷を評価するとともに、養分欠乏や幼苗生育を改善するための施肥技術の開発を行っています。



サゴヤシ圃場に設置したリター分解試験。
一定量の小葉と葉軸をネットの中に入れて土壌表面に静置。


湿地にサゴヤシが並ぶ様子。
船上から撮影。





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