研究内容
 当研究室では、生物活性天然有機化合物の全合成を中心に置いて、有機合成反応、合成方法論の開発、有機合成による構造研究、類縁体の化学合成、活性発現機構の解明・制御など広範な研究を進めている。研究対象としている天然物は、いずれも分子量は小さいが官能基密度が高く(densely functionalized natural products)、有機合成がきわめて困難と予想される。以下に現在までに研究対象としてきた天然物を化学構造によって分類して記す。

(1)グアニジン系天然物:
 フグ毒として有名なテトロドトキシン(TTX)、麻痺性貝毒サキシトキシン(STX)は、電位依存性ナトリウムチャンネルタンパク(Na+チャネル)によるNa+イオンの細胞内流入を特異的に阻害することで、その毒性を示す。当研究室では、過去20年にわたるTTXの合成研究で、様々な類縁体の合成を可能とするTTXの汎用合成法を確立した。また、分子内にグアニジンを有するアセチレン化合物のブロモ環化反応を開拓し、 STX骨格の効率的合成法の開発に成功した。ごく最近、海産天然物クランベシンBのカルボン酸部分(crambescin B COOH)を合成し、この化合物が強力なNa+チャネルの阻害活性を示す事を見いだした。
当研究室では、これらグアニジン系天然物の構造を起点にして、サブタイプ選択的なNa+チャネル阻害剤の開発を目指している。そのために、以下に示す TTXの汎用合成法を開発し、最近ヤドクカエルから単離されたTTXの最も複雑な類縁体チリキトキシンの全合成に成功した。また、様々な天然類縁体と天然には存在しない類縁体や、代謝安定同位体(15N) で標識したTTXの合成にも成功している。
インドール関連化合物:
インドールアルカロイドは、生理活性天然物の宝庫である。当研究室では、特異な構造をもったトリプトファンの翻訳後修飾構造C-Man-Trpや、海産天然物 デフォルミルフルストラブロミン(α4β2 ニコチン性アセチルコリン受容体のmodulator)の合成を達成し、チャルテリン(見るべき生物活性が報告されていない)、インドールが高度にテルペノイドで修飾されているセスペンドール(マクロファージ泡沫化阻害)などの合成を進めている。 。
テルペン、ステロイド関連化合物:
酸化度が高く複雑な多環構造を有するポリガロリド(何も生物活性が報告されていない)の全合成を達し、ソラノエクレピン(ジャガイモシスト線虫孵化促進活性)、チャキシンB(破骨細胞の形成阻害)などの合成を進めている。

その他
植物毒素タゲチトキシン(RNAポリメラーゼIIIの選択的阻害剤)、抗生物質パクタマイシン(リボゾーム30sサブユニットへ結合することによるタンパク質合成阻害)の合成を進めている。これら両化合物は、すでに標的タンパクとの共結晶のX線結晶構造が明らかになっており、阻害剤の合理的分子設計のためのモデル研究としての展開を計画している。