<研究の紹介>

 

プロトクロロフィリド還元酵素系の生理生化学的研究 

 プロトクロロフィリド還元系は、クロロフィル生合成の最終段階の反応です。この反応によりクロロフィルは特有の緑色を呈するようになり、すなわち光合成が可能となる光吸収特性を獲得する重要な反応です。また、緑化の光依存性を決定づける反応でもあります。藤田は、プロトクロロフィリド還元反応を光に依存せずに触媒する酵素暗所作動型プロトクロロフィリド還元酵素の遺伝子を世界で初めて同定しました (Fujita et al. 1992)。この発見を基盤として、プロトクロロフィリド還元酵素を中心に、クロロフィルの生合成系機構を、進化的視点をふまえて生化学的、生理学的研究を進めています。

 

1)光非依存性プロトクロロフィリド還元酵素の生化学

 藤田は、インディアナ大学のバウアー教授(Prof. Carl E. Bauer)と共同で、世界に先駆けて、光非依存性のプロトクロロフィリド還元酵素(下図)(Light-Independent またはDark-operative Protochlorophyllide Oxidoreductase 略してDPOR)のアッセイ系を確立し、各々の酵素サブユニットの精製に成功しました(Fujita and Bauer 2000)。DPORの生化学的解析やニトロゲナーゼとの類似性について研究を進めています。(これらの酵素は酸素に触れるとすぐに失活してしまうため、実験操作はすべて嫌気チャンバー内で行っています。)

 

 最近、DPORの触媒コンポーネント(NBタンパク質(下図パネルa下))の立体構造解析を解明し、Nature201056日号)に掲載されました。

DPOR図w3.psd

 DPORa)もニトロゲナーゼ(b)ともに二つのコンポーネント;還元コンポーネント(L タンパク質、Fe タンパク質)と触媒コンポーネント(NB タンパク質、MoFe タンパク質)から構成され、これらは立体構造的にも互いに非常によく似ていることが分かりました。また、電子が移動する経路を結晶構造から抜き出して右に示しています。ニトロゲナーゼでは、電子は、Fe タンパク質の[4Fe-4S]クラスターからP-クラスターを経由してFeMo-coと呼ばれるMoを含む複雑な金属中心に到達し、FeMo-co上に結合する窒素分子の還元に使われます。DPORにおいても、L-タンパク質の[4Fe-4S]クラスターからNB-クラスターを経由してプロトクロロフィリド(Pchlide)へと電子が移動します。これらの金属中心と基質の空間配置が、両酵素間でたいへんよく保存されていることがわかりました。このことは、安定な多重結合、窒素原子間の三重結合やポルフィリン環の共鳴二重結合、を還元する共通構造基盤が存在することを示しています。(図1:藤田 (2011) 生化学 83, 642-647より)

 

この研究は、大阪大学蛋白質研究所の栗栖源嗣教授と立命館大学の民秋均教授と協同して行われました。

本研究は、Nagoya University Research (英語です)高エネルギー加速器研究機構のニュースで分かりやすく紹介されています。

 

2)二つのプロトクロロフィリド還元系の生理学

 藤田は、シアノバクテリLeptolyngbya boryana (Plectonema boryanum)において二つのプロトクロロフィリド還元系のいずれか一方を欠失した変異株を単離しました。これらの変異株の生育から、二つの還元系が部分的に機能分化していることを明らかにしました(Fujita et al. 1998)。この機能的分業は、二つのプロトクロロフィリド還元系の生化学的性質をうまく活用また相補することにより、いかなる生育条件下でもクロロフィルが滞りなく合成されることを可能としていると推測されます。この点を明確にするために、各酵素の生化学的性質を明らかにしていこうとしています。

 DPORは、O2レベルが3%以下の低酸素環境下や暗所や低い光強度環境で主として使われていることがわかりました(Yamazaki et al. 2006)。

 

3)黄化シアノバクテリア(ラン藻)を活用した光化学系構築機構の解析

 シアノバクテリアLeptolyngbya boryana (Plectonema boryanum)の野生株は、明所暗所いずれでもクロロフィルを合成し、光化学系を構築することができます。ところが、DPORのサブユニットの一つchlL遺伝子を欠失した変異株YFC2は、暗所でのクロロフィル合成能を失い、クロロフィル合成は被子植物同様に光依存的となります。この変異株を、暗所で連続培養すると世代時間とほぼ等しい半減期でクロロフィル量が減少し、あたかも暗所で発芽した被子植物の芽生えのように"黄化"してしまいます。このようなラン藻の黄化細胞に光を照射すると、植物の黄化芽生えと同様に急速にクロロフィル合成が進行し、光化学系が構築されていきます。このような原核生物の黄化緑化の系は、これまでにない光化学系の構築機構を研究する格好の材料となることが期待されています。姫路工業大学(現兵庫県立大学)の佐藤・小池両先生との共同研究で、黄化過程を詳細に検討したところ、クロロフィル減少に対して、光化学系 I PS I)の方が光化学系 IIPS II)よりも優先的に減少することを見出しています(Kada et al. 2003)。

 

<進化的視点その1 〜クロロフィル合成系と窒素固定酵素ニトロゲナーゼ>

 光非依存性プロトクロロフィリド還元酵素(DPOR)は、3つの蛋白質から成る複雑な酵素複合体であり、興味深いことに、それぞれの蛋白質のアミノ酸配列は、一見なんの関係もなさそうなニトロゲナーゼの3つのサブユニット蛋白質と有意な相同性があります。しかも、立体構造的にもたいへんよく似ていることが実証されました。このことから、祖先光合成生物は、光合成の黎明期の進化の過程において、ニトロゲナーゼもしくはその後ニトロゲナーゼとなる祖先遺伝子を拝借してクロロフィルを作るための酵素プロトクロロフィリド還元酵素を作り出したと想像されます。

 

<進化的視点その2 〜酸素発生型光合成の出現とプロトクロロフィリド還元系〜>

 酸素発生を伴わない原始的な光合成を行ういわゆる光合成細菌は、ニトロゲナーゼと類似したプロトクロロフィリド還元酵素系(DPOR)のみを有しています。これに対し、植物と同様の酸素発生型の光合成を行うラン藻は、DPORに加えて、全く異なるタイプの光依存型プロトクロロフィリド還元酵素(LPOR)を併せもっています。酸素非発生型の光合成から酸素発生型の光合成への進化の過程において、新しいタイプのプロトクロロフィリド還元系を創出するなんらかの必要性があったのではないでしょうか?

 

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