<研究の背景>

 

クロロフィルに吸収される太陽光エネルギーが地球上の生命を支えている

Energy of sunlight absorbed by chlorophyll supports life on the earth


 クロロフィルChlFig. 1)は、光合成の光反応に必須のテトラピロール色素(ピロール環という5員環が4つ結合した化合物の総称、ヘムやビタミンB12 なども含まれる。)であり、地球上のほとんどすべての生物は、Chlによって吸収される太陽エネルギーに依存しているといっても過言ではありません。植物や藻類などの地球上の光合成生物全体で年間に10億トン(世界の年間 鋼鉄生産量に匹敵)ものChlを合成しているという試算があります。Chlの生合成はこれほど大規模であり、宇宙からでも観測しうる唯一の生化学的プロセスとなっています。

Chlorophyll.jpg

Figure 1

クロロフィルaの構造

 

 

クロロフィルとその中間体は危険な分子でもある

Chlorophyll and its intermediates are very dangerous molecules


 植物や藻類は、Chlによって吸収した光エネルギーを化学エネルギーに変換することにより、水と二酸化炭素による光独立栄養的な生育を可能としています。その一方、光合成を行う生物にとってChlとその生合成の中間体は、フリーで存在すると光を吸収してラジカルを生成し細胞に重篤な傷害をもたらす非常な危険な分子でもあります。実際、正常に生育する光合成生物の細胞では、Chlの生合成中間体は観測されませんし、合成されたすべてのChl分子は、光化学系蛋白質などのChl結合蛋白質に結合した状態にあります。このことから、光合成生物は、光化学系や光捕集系のChl結合蛋白質群とChl分子の生合成を何らかの機構により精妙に同調させていると考えられます。従って、光合成の主要色素であるChlの生合成とその制御を明らかにすることは、光合成生物の光合成能獲得機構を理解する上できわめて重要な研究課題です。

 

 

クロロフィル生合成系の全体像

Full picture of chlorophyll biosynthesis


 Chlの複雑な分子構造から推察されるように、その生合成系は、植物やシアノバクテリアではグルタミン酸を最初の前駆体とし、少なくとも15以上の多数の酵素反応から成り立っています。一方、光合成細菌ではグリシンとサクシニルCoAから始まります。この複雑な生合成系において、 その前半(プロトポルフィリンIXまで)は、ヘム合成系と共有しており、後半(プロトポルフィリンIX以降)は、Chl特有の経路でMg-ブランチと呼ばれています。近年、光合成細菌やラン藻を用いた分子生物学的研究の結果、その複雑な合成系の各々の酵素反応に関わる遺伝子が同定され、その全貌が明らかにされつつあります。さらに、これらのChl合成系に関わる遺伝子群の系統的解析から、生命の黎明期における光合成の進化を考える上で重要な知見が次々と見出されつつあります。私たちは、Chl a生合成の最終段階であるプロトクロロフィリド還元(Fig. 2)に焦点を絞って研究を行っています。

 

Pchlirereduction.jpg

Figure 2

プロトクロロフィリド還元反応

プロトクロロフィリド(左)D環二重結合(C17=C18結合、黄色)が立体特異的に還元され、クロロフィルaの直接の前駆体クロロフィリドa(右)に変換されます。この反応は、バクテリオクロロフィルaの生合成でも共通ですが、バクテリオクロロフィルa生合成ではこの反応の後さらにB環二重結合(C7=C8結合、黄緑色)が還元されバクテリオクロリン環が形成されます。

 

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