<研究の背景>

 

CO2が支える地球上の生命

 最近、「地球温暖化」の原因の一つとして「大気中CO2濃度の上昇」が疑われていることもあり、CO2に悪いイメージを持っている人もいるかもしれません。しかし、CO2は生物の体を構成している有機化合物の主原料です。空気に含まれるCO2から有機化合物を生産しているのは、「光合成」を行う植物や藻類、さらに一部のバクテリアです。動物は有機物を新たに生産することができないので、植物や他の動物を食べることにより、直接的・間接的に光合成によってつくられた有機物を利用しています。「増加した」とはいっても、空気中に0.04%弱しか存在しないCO2に地球上の全生命が依存しているのです。

 

植物にとっては不足気味のCO2

 生命が誕生したころの地球では、大気のほとんどをCO2が占めており、その後徐々にCO2濃度は低下してきたと考えられています。CO2 濃度の低下の大きな原因は光合成ですが、CO2濃度が下がるにつれ、原料不足のために光合成は次第にやりにくくなってきました。有機物をつくるには、CO2以外の原料(窒素源としての硝酸イオンやイオウ源としての硫酸イオン)も必要なので、必ずしもCO2を増やしただけで光合成が盛んになるとはかぎりません。しかし、他の条件を整えた状態では、CO2濃度の上昇によって光合成が促進されます。現状のCO2濃度は植物にとって必ずしも十分というわけではないのです。

 

CO2同化を邪魔するO2

 光合成では、1分子のCO2を同化して糖の形に変換するごとに1分子のO2が副産物として生じます。現在の大気の約20%を占めるO2も光合成によってつくられたものが蓄積した結果ですが、厄介なことにO2は光合成を妨害します。CO2の同化の最初のステップは、「RuBP」という略号で呼ばれる炭素5個を含む有機化合物とCO2 とを反応させて炭素3個を含む有機化合物2分子をつくる反応なのですが、この反応を司る「Rubisco」という名前の酵素がCO2O2を取り違え、反応をやり損なってしまうためにO2による妨害が起こります。現在の大気組成では、Rubisco は3〜4回に1回は「取り違え」をしています。

 

微細藻類のCO2濃縮機構

 O2によるRubiscoの妨害を防ぐ有効な方法は、Rubiscoの周囲のCO2濃度を高めてやることです。CO2分子は小さくて細胞の膜を透過しやすいので、どこかに貯めておくことはできません。しかし植物の中には、いわば「裏技」を使って「CO2濃縮効果」を得ているものがあります。トウモロコシやサトウキビなどが行う「C4光合成」は、その代表格です。一方、緑藻クラミドモナスや、ラン藻(シアノバクテリア)などの「微細藻類」は裏技ではなく、CO2やその水和産物であるHCO3-を細胞内に輸送することによりCO2濃縮効果を得ています。このような能力を、作物に導入することにより光合成生産性の向上が期待できるため、微細藻類のCO2濃縮機構の研究が30年以上前から続けられ、ラン藻については、その概要が明らかになっています