作物科学トップページ > 矢野のページ > Hydraulic liftのメカニズム解明とその応用
植物をスプリンクラーとして利用できるか?
 
植物に水やりをさせる?
 
 これまでの一般常識では、植物は水を与えられる受動的存在に過ぎませんでした。私たちが現在取り組んでいるのは、そんな常識に対する挑戦です。つまり、植物に地下深くの水をくみ上げさせて、乾いた表層の土にその水を散布させることです。植物を灌漑手段として活用する、この”植物スプリンクラー”というアイデア(関谷・矢野,2004)について、ここで紹介いたします。
 
 
植物スプリンクラー
 
 地中深く根を張った植物が蒸散を停止する夜間に、土壌深層から吸収した水を乾いた表層土壌に放出することがあります。Hydraulic lift と呼ばれるこの現象は、古くは1930年代の記録が残っています。しかし、実験室のような特殊な条件でのみ起こる現象を見なされたためか、その後ほとんど注目されることはありませんでした。
 
 私たちは、アフリカのザンビア共和国で深根性の農作物であるキマメがHydraulic lift 現象をを引き起こし、深層から汲み上げた水をトウモロコシに供給することを実証しました(Sekiya & Yano,2004)。これは、農耕地でHydraulic lift 現象を確認した世界初の報告です。さらに、キマメに遮光処理を施すことで、供給する水の量を大きく増加させることも確認できました。これはHydraulic lift現象が制御可能であることを意味しています。
 Hydraulic lift現象をうまく制御すれば、灌漑手段として利用できるのではないか。これが植物スプリンクラーのコンセプトにつながっています。現在私たちはこのコンセプトを中国やアフリカなどの乾燥地域で実証するためのプロジェクトを開始しています。
 
深根性のキマメは、土壌表層下2mにある地下水にアクセスしており、導管内の水のδD値は20‰を示した。
浅根性のトウモロコシは、キマメとの距離に応じて導管内の水のδD値が変動している。これは、キマメがトウモロコシに水を供給したためである。
 
資源としての水

 現在日本ではガソリンが1リットル140円前後で販売されていますが、それ以上の値段で販売されるミネラルウォーターもあります。世界的にみると、淡水は石油よりも効果に取引されている資源なのです。地球温暖化に伴って、世界各地で大雨や干ばつなどの気象変動が心配されていますが、水不足に悩む地域は今後さらに拡大していくと予想されています。
 特に農業は、地球の淡水資源の半分以上を消費しており、農業における水消費の効率化は他産業への波及効果からみても重要な課題です。日本の食料自給率は40%程度と極端に低く、様々な農作物を輸入に頼っています。これらの農作物を生産するために、莫大な水が消費されており、穀物・野菜・肉類の輸入を介して、私たちは原産国の貴重な水資源を多量に消費しているのです。ですから、地球上の水問題を克服していく知恵が、私たちにも求められているのです。
 
 
 
引用文献
関谷信人・矢野勝也.(2004) 植物のスプリンクラー機能:Hydraulic liftの活用.農業および園芸.79:695-702
Sekiya, N. and Yano, K. (2004) Do pigeon pea and Sesbania supply groundwater to intercropped maize through hydraulic lift?: Hydrogen stable isotope investigation of xylem waters. Field Crops Research, 86: 167-173