平成29年度 資源生物機能学講座セミナー

連絡先:資源生物機能学講座(園芸科学研究分野)白武(内線4026

回 平成30116日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

吉岡 博文

(生物相関防御学研究分野 准教授)

植物免疫をどう操るか

 植物は様々な病原菌の攻撃から自身を護る術として、堅牢な植物免疫を発達させてきた。しかし、一部の病原菌はこの生体防御機構をも翻弄し、感染を果たそうと進化を遂げる。

 本セミナーでは、これまでの研究を振り返りながら、最近得られた知見を基に、今後の課題や、植物免疫を操ることによる病虫害防除の可能性について考察したい。

 

回 平成291219日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

水野 邑里

(植物病理学研究分野 D2

ナス科植物の病害抵抗性における核膜孔を介した輸送の機能解析

 ジャガイモ疫病菌は、世界4大作物の1つであるジャガイモの最重要病原菌として知られている。当研究室では、本菌に対して抵抗性を示すナス科のモデル植物ベンサミアナを用いて、ジャガイモ疫病菌抵抗性に必須な遺伝子の機能解析を行っている。これまでに、核膜孔の構成因子であるヌクレオポリン(Nup75Nup160など)が本菌に対する抵抗性に必須な遺伝子として見出されている。これら因子のサイレンシング株では、mRNAの核への異常な蓄積と抗菌物質生産の低下が認められる。

 本研究では、植物のa害抵抗性における核膜孔を介した輸送の重要性を明らかとすることを目的としている。核-細胞質間輸送の主要な制御因子である低分子量Gタンパク質RanおよびRan結合タンパク質RanBP1の抵抗性誘導における機能を解析したところ、mRNAの核外輸送が迅速な病害抵抗性誘導に重要な役割を担っていることを示された。さらに、核から細胞質への選択的物質輸送に機能するExportinXPO)遺伝子の病害抵抗性における役割について解析を進めている。異なる物質の核外輸送に関与するXPO1およびXPO2サイレンシング株における抵抗性誘導を調査したところ、XPO1およびXPO2が病害抵抗性を正および負に制御する可能性が示されている。

 

回 平成291128日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

四方 雅仁

(農研機構 生物機能利用研究部門)

遺伝子組換えとゲノム編集による作物育種の現状と動向

 1996年から本格的に商用栽培が始まった遺伝子組換え作物は、2016年には世界26ヶ国で栽培されており、その栽培面積は18,510万ヘクタールにまで広がっている。日本は年間1,600万トン程度の遺伝子組換え作物を輸入していると推定され、飼料用や油料用、加工用の原材料として利用されており、私たちの食生活を支えているのが現状である。これまで実用化されている遺伝子組換え作物は、除草剤耐性と害虫抵抗性といった主に生産者にメリットがあるものがほとんどだが、機能性成分を蓄積させるなど消費者にメリットがあるものも開発が進んでいる。

 一方、近年急速に技術が進展しているゲノム編集では、狙った遺伝子に変異を導入することが可能であるため、育種を効率化することができる。植物ではゲノム編集のためのツールをゲノムに導入する必要があるが、このツールは交配によって除去することができる。このような、最終産物には外来遺伝子を含まないが遺伝子組換え技術を利用して開発される作物について、その規制取扱い方針について世界中で議論が進められているところである。

 

回 平成291121日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

森口 卓哉

(農研機構果樹茶業研究部門カンキツ研究領域長)

温暖化と果樹栽培:リンゴが袋掛け処理で赤くなるのはなぜ?

 温暖化は、農作物の持続的安定生産に大きな影響を与えている。特に果樹は一度植栽すると数十年同じ樹で栽培を続けるため、環境の影響は大きい。温暖化により、リンゴでは商品価値が低くなる果皮の着色不良が問題となっている。そのため、温暖な気温下でも着色の良い品種の育成や、温度を下げる様々な技術開発が進められている。一方、着色向上のための技術として袋掛けが利用されている。6月中旬~7月中旬に袋を掛け、収穫前30日に袋を除くことで赤く着色するタイプのリンゴはより一層赤く、青(黄)色のリンゴも赤く着色する。しかし、袋掛けで着色が改善する理由は十分に分かっていない。そこで、本セミナーでは、赤くならない非着色品種である「陸奥」が袋掛けにより鮮やかな赤~ピンク色に着色する機構について我々の結果を紹介する。

 

回 平成291010日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

渡邉 健史

(土壌生物化学研究分野 講師)

水田土壌の鉄酸化反応と微好気性鉄酸化細菌

−実験の失敗がもたらした新しい発見−

 湛水と落水が繰り返される水田において、土壌中の鉄の酸化還元状態の変化は、様々な有機・無機物質の挙動に影響を及ぼす。

 これまで、水田土壌中の鉄酸化反応は非生物的反応(いわゆる空気酸化)が圧倒的に有利と考えられてきたため、微生物を介した生物的な反応に注目した研究はほとんど行われていなかった。しかし、演者は実験の失敗から、偶然、低酸素濃度条件下で鉄酸化反応を行う微好気性鉄酸化細菌のコロニーを土壌表面で観察し、その後、試行錯誤の末に新規菌株を分離することに成功した。

 本セミナーでは、偶然の観察結果を再現し、菌を分離するまでに至った過程や、水田土壌中の鉄酸化反応と微好気性鉄酸化細菌の関係性についてのこれまでの解析結果を紹介し、考察したい。

 

回 平成2974日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

山室 千鶴子

(福建農林大 教授)

シロイヌナズナにおけるDNAメチル化・脱メチル化機構と形態形成

 DNAのメチル化は、主にシトシンのピリミジン環の5位炭素原子へのメチル基の付加反応で、DNAの一次配列の変化を伴わずに後天的な修飾によって行われる『エピジェネティクス』と呼ばれる遺伝子発現制御機構の一つである。DNAのメチル化は、DNAメチル化酵素と脱メチル化酵素によって維持される。シロイヌナズナでは、ROS1/DME遺伝子ファミリーが脱メチル化酵素として働き、導入遺伝子、トランスポゾンなどの制御に関わる。演者らは、欠損変異体の解析から、孔辺細胞の形成を負に制御するEPIDERMAL PATTERNING FACTOR2 (EPF2)遺伝子の発現にROS1脱メチル化酵素が重要な役割を担うことを示した。

 本セミナーでは、主にDNAの脱メチル化酵素欠損のros1変異体の解析を中心に、今後の期待される展開についても触れながら、形態形成におけるDNA脱メチル化酵素の役割について紹介したい。

 

回 平成29530日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

Prof. Robert Horton

Iowa State University, Department of AgronomyDistinguished Professor

Soils are a Critical Component of Earth’s Critical Zone

Earth's critical zone is the “heterogeneous, near surface environment in which complex interactions involving rock, soil, water, air, and living organisms regulate the natural habitat and determine the availability of life-sustaining resources.” Soils are a natural resource that is required for human life. Soils are as vital a resource for sustaining life on earth as are air and water. Soils are the growth medium for plants, which form the base of the terrestrial food chain now supporting over seven billion people. Often only a layer of a meter or less in thickness, soil covers the earth’s terrestrial surface. Soils, and thus human life, are threatened by accelerated erosion, degradation of structure and fertility, and pollution. Soils are composed of heterogeneous mixtures of solids, liquids, and gases, as well as a diverse community of organisms. Fundamental soil knowledge and practical soil management application skills are required for sustainable management of the soil resource. The interactions of fundamental biological, chemical, and physical processes in the presence of complex constituents with spatially and temporally varying organization causes soil science to be an inherently challenging discipline. Surface soils experience dynamic water content and temperature. This talk addresses aspects of the importance of soils and describes recent advances in measuring dynamic surface soil processes.

 

回(博士学位予備審査) 平成29526日(金)午後430分〜

農学部第8講義室

Ngin Chhay

(植物病理学研究分野 D3

The study on sustainable integrated pest management on rice in Cambodia

Rice (Oryza sativa) is a staple food crop grown in Cambodia and thus, important for the country’s food security and economy. To ensure increased income of and reduced pesticide-poisoning risks to Cambodian rice farmers, the farmer field school (FFS) was introduced since 1993 to build farmer knowledge and best practices on the application of environmentally friendly integrated pest management (IPM). This study assessed the effectiveness of IPM practiced during FFS training and its long-term impact on  production efficiencies, yields and profitability of rice farming from 2008 to 2015 The results showed that yields and profits were significantly increased and the pesticide usage was reduced during the training and for long-term period of over 7 years if compared with untrained farmers. It was evidenced that the rice yield of insecticide-treated plots were not significantly different from those of the untreated plots because of the sustained biodiversity in rice fields known as ecosystem service provided by natural enemies that worked well in insect pest control. Moreover, the rice plant has sufficient ability to compensate and tolerate for certain levels of foliage and tiller losses. This has an implication on making decision for insecticide applications by considering the levels of damages and suitable crop management practices at different stages. In this regard, applying chemical insecticides based on an established calendar to control insect pests is not a viable investment. Therefore, working toward a non-toxic environment is a viable option in rice production in Cambodia to achieve sustainable production, maintain good environment, protect human health and attain income security.

 

回(博士学位予備審査) 平成2952日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

三星 暢公

(土壌生物化学研究分野 D3[社会人])

フザリウム共培養法による土壌病害の発病抑止性の評価に関する研究

 作物の生産現場において収量低下の大きな原因の一つに土壌病害がある.なかでも土壌伝染性フザリウムは被害を及ぼす作物の種類が多く,防除が困難である.一方で土壌病害の発生の少ない発病抑止土壌が知られており,土壌理化学性が要因となる場合もあるが,生物性がその大きな要因と考えられている.しかし,土壌の発病抑止性にかかわる実用的な生物性の評価法がなく,総合的病害管理のためにも,その評価法が求められている.

 本研究では,作物生産圃場における土壌微生物による土壌の発病抑止性を評価する手法の確立を目的とし,土壌懸濁液と病原菌(フザリウム)を共培養し,フザリウムの増殖抑制程度を評価する方法を検討した.これまでに,本方法を用い,有機質肥料を混合した土壌および発病抑止性を示す有機物連用圃場の土壌で行ったホウレンソウ萎凋病菌の接種試験で,土壌懸濁液中の微生物によるフザリウムの増殖抑制程度とホウレンソウの発病度との間に相関があることが示された.さらに,全国各地の作物生産圃場について,本方法によりフザリウムの増殖抑制程度の調査を行うとともに,いくつかの圃場の土壌を用い,ホウレンソウ萎凋病菌の接種試験を実施した.セミナーではこれらの試験で得轤黷ス結果について報告する.

 

 

平成28年度 資源生物機能学講座セミナー

連絡先:資源生物機能学講座(土壌生物化学研究分野)村瀬(内線5509

回 平成29117日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

西内 俊策

(植物生産科学第2研究分野 助教)

異分野との連携

-レガシーデータを用いたイネの品質に関わる因果関係解析の試み-

  日本の農業は就業人口の減少と農業従事者の高齢化という問題を抱えている。そして近年、IT技術はそれを導く主体として、農業生産の効率化だけでなく品質の向上や農業全体の価値の上昇といった革新的な変化に繋がると期待されている。その一方で、農業現場におけるITの利用やスマート化については基盤レベルでの研究が必要であり、農学を含めた異分野間での融合・連携を図る必要がある。

  演者は異分野融��vロジェクト「ICT活用農業コンソーシアム」に参加し、情報工学と農学の連携研究の形を模索してきた。そして現在、手軽な農業ITとして利用の普及が期待されるピンポイントの圃場気象情報を利用し、イネの収量と品質の両立を前提とした栽培管理スケジューリングの支援を目的とした研究を行っている。本セミナーでは、異分野融合プロジェクトの状況と、そこから必要性を見出した農業レガシーデータの活用について紹介する。

  レガシーデータとは古い様式で記録された情報であり、イネ栽培においては紙に記載された栽培履歴が相当する。それらの電子化を通して、気象、栽培管理、米の品質の間にどのような因果関係が存在するか因果関係の推論に用いる。農学と情報工学との連携により得られた知見が、これからの農業現場において有用なものと証明することを目指している。

 

博士学位予備審査 平成281227日(火)午前1100分〜

農学部第8講義室

石本 聖絵

(植物遺伝育種学研究分野 D3

イネ球状型胚発生突然変異体を用いた胚基部領域決定機構の解析

 多細胞生物において頂端部-基部の軸決定は器官形成およびその後の成長に重要である。高等植物においては胚形成過程初期に頂端部-基部の軸決定を行っており、シロイヌナズナでは接合子の不等分裂により生み出される頂部細胞と基部細胞がそれぞれ胚と胚柄を構成する。接合子の不等分裂にはMitogen Activated Protein KinaseMAPK)カスケードをはじめとするシグナル経路が関与する事が知られている。MAPKKKであるYODAMAPK3/6を欠失した変異体は、接合子が等分裂し、二つの頂部様細胞を生み出し、その結果、胚柄を構成する胚基部領域を欠失する。一方、不等分裂後の胚の各領域の分化・維持のメカニズムはほとんど明らかとなっていない。

 本研究ナは、イネ(Oryza sativa)におけるほとんどの器官を欠失し球状に成長する変異体であるイネ球状型胚発生突然変異体を解析することで、イネにおける胚基部領域形成に関与する因子の同定およびその機能の解明を目指した。本発表では、研究の結果より明らかになったイネにおける胚基部領域形成機構について報告する。

 

博士学位予備審査 平成281227日(火)午前1000分〜

農学部第8講義室

渡邊  宏太郎

(植物遺伝育種学研究分野 D3

Zea mays ssp. maysZea nicaraguensisを用いた酸素漏出バリア関連形質の遺伝解析

トウモロコシ(Zea mays ssp. mays)は耐湿性が低く、過湿条件下で湿害を受けやすい。そのため降雨量の多い日本においては、トウモロコシの耐湿性向上が重要な育種目標の一つである。トウモロコシの耐湿性が低い要因として、耐湿性に大きく関与する根の酸素輸送能力が低いということが考えられる。過湿条件下では酸素は通気組織を介して根端まで輸送されるが、酸素は根の基部において根圏に漏出してしまい、 根端まで十分に供給されない(この酸素漏出をRadial Oxygen LossROL)と呼ぶ)。一方で、トウモロコシの近縁種であるZea nicaraguensisは、根からの酸素漏出を防ぎ、根端への効率Iな酸素供給を可能とするROLバリアを根に形成することで、高い耐湿性を獲得している。

本研究では、トウモロコシとZ. nicaraguensisを用いてROLバリアが形成される根の外層の観察を行ったところ、Z. nicaraguensisの根にはROLバリアに関わると考えられる構造上の特徴が存在することが分かった。また、トウモロコシとZ. nicaraguensisとの間で作出された染色体断片置換系統を解析した結果、ROLバリア形成を制御する遺伝子座が第3染色体上に座乗することを明らかにした。さらに、遺伝子マッピングにより、ROLバリア形成を制御する候補遺伝子の選抜を行った。これらの知見は、これまで未解明であったROLバリア形成の分子機構を明らかにするだけでなく、耐湿性の高いトウモロコシ品種の作出の一助となることが期待される。

 

博士学位予備審査 平成281227日(火)午前900分〜

農学部第8講義室

馬場 竜子

(土壌生物化学研究分野 D3

水田土壌の水素生成微生物群集に関する研究

 水田は稲作期間に湛水されるため、土壌の大部分は嫌気的な条件となり、有機物は様々な微生物によって分子状酸素以外の物質を電子受容体とした反応により、段階的に分解される。その内、水素生成有機物分解反応は土壌中の有機物の無機化だけでなく、水田土壌微生物生態系を支える重要な反応である。ヒドロゲナーゼは水素代謝を触媒する酵素の総称であり、特に [FeFe]-ヒドロゲナーゼは水素生成反応を触媒するとされる。近年、[FeFe]-ヒドロゲナーゼの遺伝子hydAを対象とした分子生物学的解析により環境中の水素生成微生物群集が明らゥにされつつある。

 本研究では、水田土壌中の水素生成微生物群集の多様性と環境変化に応じた動態を明らかにすることを目指し、水田土壌中に存在するhydAの多様性に加え、嫌気的な有機物分解および還元過程で転写されるhydAの変化、さらに、水田土壌からの分離株を用いたhydA転写と水素生成活性の関係についての解析を行った。本発表では、これらの結果より明らかになった水田土壌中の水素生成微生物群集の多様性と動態について報告する。

 

回 平成281213日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

Peter Ofori Amoako

(園芸科学研究分野 D2

Genome-Wide Functional Analysis of Tomato Transporters and Their Possible Roles to Fruit Development

In an attempt to improve tomato fruit quality, it is essential to reveal and understand metabolites accumulation pattern(s) of plant transporter proteins and the associated genetic co-ordinations contributing to the final composition of ripened/matured fruits. The accumulation of compounds (such as sugars, amino acids, secondary metabolites, organic acids and inorganic acids) in the plant cells create high osmotic potentials which consequently contribute to the fruit growth, quality and enlargement. In this study, we performed genome-wide analysis of tomato transporter proteins which includes; aquaporins, sugar and ABC transporters. The semi-quantitative analysis performed on putative candidate genes; SlTMTs, SlXIPs, SlABCB, and SlABCC subfamilies revealed relatively varied expression profiles at various fruit developmental stages. RNA-interference pathway is being used to develop mutant lines to clearly ascertain their respective contributions to tomato fruit development.

 

回 平成28121日(木)午後430分〜

農学部第8講義室

横山 正

(東京農工大学農学研究院 教授)

バイオ肥料の研究とそれの農業生産の現場での展開に関して

 約10年以上前から、水稲を対象に、化学肥料の施用を減らして収量の維持が可能な、バイオ肥料の開発研究を始めた。日本にはこのようなバイオ肥料は存在せず、東南アジア等では、アゾスピリラム属細菌で収量を増加させる接種技術の開発が盛んであった。アゾスピリラム細菌を用いたバイオ肥料は、品質管理等に課題があり、芽胞形成菌であるバチルス属細菌で、開発研究を進ることにし、農工大の圃場から単離したバチルス属細菌を対象に研究を進゚た。その結果、バチルス属プミスル種TUAT1株を用いた、水稲の増収・減肥栽培に適応可能なバイオ肥料利用技術を開発した。本セミナーでは、TUAT1株を用いたバイオ肥料開発の経緯や、TUAT1株が水稲へ与える効果、農業生産の現場への適応技術や今後の展開に関して話す。

 

博士学位予備審査 平成281122日(火)午後4��30分〜

農学部第8講義室

安達 広明

(生物相関防御学研究分野 D3

植物免疫に関与するWRKY型転写因子群

による活性酸素生成機構

 植物が病原菌を認識すると活性酸素種 (ROS) の生産や細胞死を伴う激しい免疫応答が誘導される。MAPキナーゼ (MAPK) カスケードは、免疫応答において主要なシグナル伝達経路であり、その下流では転写因子を介した大規模な転写の再プログラミングが行われている。しかし、MAPKカスケードの下流における植物免疫の調節機構については不明な点が多い。

 本研究では、ベンサミアナタバコの植物免疫に関与するMAPKカスケードとしてMEK2カスケードに着目し、その基質である複数のWRKY型転写因子がROSを生成するNADPHオキシダーゼの遺伝子を正に発現調節することを明らかにした。基質WRKY群を一過的に葉で発現させることによって、これらはNADPHオキシダーゼ遺伝子の発現のみでなく、葉緑体におけるROS生成も制御することを見いだした。さらに、感染現場におけるMAPK活性の時空間的な解析を可能にするバイオセンサーの開発に成功した。現在、本センサーを用いてMAPK活性のライブイメージングを行っている。

 

回 平成28118日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

千葉 壮太郎

(植物病理学研究分野・アジアサテライトキャンパス学院 特任准教授)

RNAウイルスの翻訳制御因子

  ウイルスは、宿主の翻訳装置を利用して自身のタンパク質を合成する必要があり、この対応策はウイルスの生存戦略に自ずと組み込まれている。一部のRNAウイルスにおいては、転写産物やゲノムをmRNAと同じ形にしたり、似た形質をもたせるなどで対応している。他方、完全に逸脱した方法で翻訳を行うウイルスも多数存在し、多様な翻訳戦略がとられている。本セミナーでは、後者に区分されるInternal Ribosomal Entry Site (IRES)について取り上げる。IRESによる翻訳では、mRNAの翻訳開始に必要なキャップ構造とポリA構造を必ずしも必要とせず、RNA分子がとる高次構造依存的に翻訳開始因子をリクルートする。多くの動物ウイルスがこの機構を利用してタンパク質翻訳を行っていることが知られていたが、今回初めて菌類のRNAウイルスからIRESが発見された。構築したレポーター実験系や解析例の一端を紹介し、ポリシストロニック(複数の読み枠をもつ)RNA利用への展望などを議論する。

 

回講座セミナーは121日(木)に変更

 

回 平成28714日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

寛之

横浜市立大学・木原生物学研究所 講師) 

フロリゲンの分子機能

 フロリゲンは植物に花芽を作らせる植物ホルモンであり、葉で合成されたのちに茎頂メリステムまで輸送されて機能する。美しい花とその後の実りをもたらすフロリゲンは多くの研究者を惹きつけ、日本でも古くは故・木原均博士に由来するアサガオを用いたユニークな研究が展開されてきたが、その正体は長い間謎に包まれてきた。しかし最近の分子遺伝学の発展から、フロリゲンは当初想定された低分子化合物ではなく、FTと呼ばれる遺伝子にコードされたタンパク質であることが明らかとなった。私達はフロリゲンの受容体を発見、活性本体となる複合体を同定して、これに強い証明を与えることができた。
 私たちはフロリゲンの新しいサイエンスを目指して、世界唯一と言えるフロリゲン生体イメージング系、独自のメリステム単離技術と次世代シーケンサーを組み合わせた大規模解析系などをこつこつ開発してきた。本セミナーでは、これらの研究から解明したフロリゲンの分子機能の新しい理解について紹介したい 

 

回 平成28621日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

竹本 大吾

植物病理学研究分野 准教授) 

ナス科植物のジャガイモ疫病菌

抵抗性に必須な遺伝子の探索と機能解析

 ジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)は、世界4大作物の1つであるジャガイモの最重要病原菌の1つである。本菌は、19世紀中頃にヨーロッパでジャガイモ飢饉を引き起こし、特に被害が甚大であったアイルランド島では餓死/病死と国外への移民により、800万人近くいた人口が半数まで激減したことが知られている。現在でも、ジャガイモ疫病菌による世界全体での経済的損失は年間約27.5USドルと試算されている。

 ジャガイモ疫病菌は、ジャガイモおよびトマトなどには感染して病気を起こす一方で、同じナス科で比較的近縁なピーマン、タバコなどには感染出来ない。私達は、ジャガイモ疫病菌に抵抗性のナス科植物が、どの様な機構でジャガイモ疫病菌の感染を免れているかを調るため、ナス科のモデル植物であるベンサミアナを用いたスクリーニングにより、種々のジャガイモ疫病菌抵抗性に必須な遺伝子を単離している。今回のセミナーでは、スクリーニングから見つかってきた様々な因子の病害抵抗性における役割について、機能が解明できたもの、現在機能解析中のものを合わせて紹介したい。

 

回 平成28517日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

白武 勝裕

園芸科学研究分野 准教授) 

果樹・果菜・花きの品質向上を目指した分子基盤研究

~果樹のマルチオミクスを中心に~

我々の研究グループでは,以下のような,果樹・果菜・花きの品質向上を目指した分子基盤研究を行っている.

  @ gマトにおけるトランスポーターおよび転写因子のゲノムワイド解析

  A 国産ゲノム編集技術を用いた高糖度トマト品種の開発

  B バラ科果樹のソルビトール代謝機構の解明と非合成植物への能力付与

  C セイヨウナシおよびブドウのマルチオミクス

  D 花弁特異的プロモーターの機能解析と花きの分子育種

  E 植物のホルムアルデヒド吸収・分解機構の解明と応用

  F 画期的機能を持つ接ぎ木システムの実用化と接ぎ木接着剤の開発

本セミナーでは,上記研究の概要について,特に『果樹のマルチオミクス』を中心に紹介したい.マルチオミクスとは,複数のオミクスを組み合わせる方法である.我々は,果樹分野における先駆的なマルチオミクスを行い,セイヨウナシ果実の成長生理や,ブドウの二次代謝産物(アントシアニン・レスベラトロール)蓄積機構を明らかにしてきた.それらの研究成果に加え,マルチオミクスの有効性や問題点についても議論したい.

 

回 平成28419日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

三星 暢公

土壌生物化学研究分野 D2) 

病原菌共培養による土壌発病抑止性にかかわる

土壌生物性評価法の検討

 作物の生産現場において収量低下の大きな原因の一つに土壌病害がある。なかでも土壌伝染性フザリウムは被害を及ぼす作物の種類が多く、防除が困難である。一方で土壌病害の発生が少ない発病抑止土壌が知られており、土壌理化学性が要因となる場合があるが、生物性が大きな要因と考えられている。しかし、土壌発病抑止性にかかわる実用的な生物性評価法がなく、総合的病害管理のためにも、その評価法が求められている。

 本研究では、生産者圃場における土壌微生物による土壌の発病抑止性を評価する手法の確立を目的とし、土壌懸濁液と病原菌(フザリウム)を共培養してフザリウム増殖抑制程度を評価する方法を検討している。これまでに、有機質肥料の種類によりフザリウム増殖抑制程度に差があることを明らかにした。また、有機質肥料を混合した土壌で行ったホウレンソウ萎凋病菌接種試験で、土壌懸濁液中の微生物によるフザリウム増殖抑制程度と発病度との間に相関があることを示した。有機物連用圃場土壌を用いた試験においても、フザリウム増殖抑制程度と発病度との関係を調査しており、これらについて報告する。

 

 

平成27年度 資源生物機能学講座セミナー

連絡先:資源生物機能学講座(植物病理学研究分野)竹本(内線4029

10回 平成28119日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

馬場 竜子

土壌生物化学研究分野 D2) 

水田土壌の水素生成微生物群集に関する分子生物学的解析

 水田は稲作期間に湛水されるため、土壌の大部分は嫌気的な条件となる。そのため、有機物が主に酸素を電子受容体とした反応により分解される畑土壌などとは異なり、嫌気的な水田土壌では有機物は様々な微生物によって分子状酸素以外の物質を電子受容体とした反応により、段階的に分解される。水素生成有機物分解反応は土壌中の有機物の無機化だけでなく、水田土壌微生物生態系を支える重要な反応である。ヒドロゲナーゼは水素代謝を触媒する酵素の総称であり、特に[FeFe]-ヒドロゲナーゼは水素生成反応を触媒するとされる。近年、[FeFe]-ヒドロゲナーゼの遺伝子hydAを対象とした分子生物学的解析により環境中の水素生成微生物群集が明らかにされつつある。

 本研究では、水田土壌中の水素生成微生物群集の多様性と環境変化に応じた動態を明らかにすることを目指し、hydAを対象とした分子生物学的解析を行ってきた。これまでに、水田土壌中に存在するhydAの多様性に加え、嫌気的な有機物分解および還元過程で転写されるhydAの変化、さらに、水田土壌からの分離株を用いたhydA転写と水素生成活性の関連についての解析を行い、水田土壌中の水素生成微生物の多様性と動態の一部を明らかにしてきたので、これらの結果について報告する。

 

博士学位予備審査 平成271224日(木)午前10時分〜

農学部第8講義室

Rasit ASILOGLU

土壌生物化学研究分野 D3) 

Study on the Diversity of Eukaryotic Microorganisms in a Rice Rhizosphere

 The rice rhizosphere is a hotspot for microorganisms in paddy soil due to supply of organic matter and oxygen to the rhizosphere by the rice roots. However, less is still known about the microeukaryotic community structure of the rice rhizosphere. In this study, the present and potentially active microeukaryotic community structures of the rice rhizosphere were characterized through denaturing gradient gel electrophoresis (DGGE) in a field and pot experiment. Results showed that the rice rhizosphere inhabited with specific microeukaryotes and protozoa are the key organisms. To reveal the effects of rice roots on the protistan community structure and their spatial distribution, a “mini-rhizobox” experiment was conducted. It is demonstrated that  that rice roots supply a favorable habitat for specific protists. Differential distribution patterns of amoeba, ciliates and flagellates were observed in the rice rhizosphere. The root tip part was characterized by the expanded distribution of flagellates and exclusive distribution of ciliates. The results showed the importance of rice roots for microeukaryotic community and suggested that protists may play ecological roles in the rice rhizosphere.

 

第9回 平成271215日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

渡邊 宏太郎

植物遺伝育種学研究分野 D2) 

トウモロコシとニカラグアテIシントを用いた

酸素漏出バリア関連形質の遺伝解析

 トウモロコシ(Zea mays ssp. mays)は耐湿性が低く、過湿条件下で湿害を受けやすい。そのため降雨量の多い日本においては、トウモロコシの耐湿性向上が重要な育種目標の一つである。

トウモロコシの耐湿性が低い要因として、耐湿性に大きく関与する根の酸素輸送能力が低いということが考えられる。過湿条件下では酸素は通気組織を介して根端まで輸送されるが、酸素は根の基部側において根圏に漏出してしまい(ROL; Radial Oxygen Loss 、根端まで十分に供給されない。一方、トウモロコシの近縁種であるニカラグアテオシント(Z. nicaraguensis)は、根からの酸素漏出を防ぎ、根端への効率的な酸f供給を可能とするROLバリアを根に形成することで、高い耐湿性を獲得している。

 そこで、本研究では、交配によって耐湿性の低いトウモロコシの遺伝子背景に、ニカラグアテオシントの様々な染色体断片を導入して全ゲノムをカバーできるように作出した染色体断片部分置換系統(Introgression Line; IL)シリーズを用いてROLバリア形成に関与する染色体領域の同定を行った。その結果、第3染色体短腕に制御領域が座乗することが示唆された。

 これまでにイネなどの他の湿生植物の解析からROLバリAの構成成分として細胞壁成分であるスベリンやリグニンが考えられている。そこで、ROLバリア形成能をもつIL系統に対しスベリンとリグニンの染色を行ったところ、ともにROLバリア形成能を持たないトウモロコシと同様な染色パターンであった。このことから、ニカラグアテオシントのもつROLバリアの構成成分には未知の物質の関与が推察された。

 上記の結果を基に現在、ROLバリア形成能に関与する遺伝子の単離を目指し、遺伝子マッピングを行っている。さらに、スベリンやリグニンの蓄積に関しても、制御領域の同定を目指し、スクリーニングを行っている。

 

第8回 平成271124日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

安達 広明

生物相関防御学研究分野 D2) 

植物免疫におけるMAPK-WRKY経路の

活性動態の可視化と標的遺伝子群の網羅的解析

 植物が病原菌を認識すると活性酸素種 (reactive oxygen species: ROS) の生産や細胞死を伴う激しい免疫応答が誘導される。MAPキナーゼ (MAPK) カスケードは、これら免疫応答の鍵を握るシグナル伝達経路であり、その下流では転写因子を介した大規模な転写の再プログラミングが行われている。これまで、ベンサミアナタバコの免疫応答に関与するMEK2-SIPKカスケードに着目し、その基質である複数のWRKY型転写因子を単離してきた。

 本研究では、ROS生産を担うNADPHオキシダーゼ (respiratory burst oxidase homolog: RBOH) の中で、特に免疫応答に関わるNbRBOHBプロモーター活性を支配するWRKY型転写因子を特定し、その機能を解析した。その結果、MAPK-WRKY経路は、NbRBOHB遺伝子の発現を上昇させることによって後に起こる細胞死誘導に貢献する可能性が示された。しかし、MAPK-WRKY経路の感染現場における時空間的な活性動態や細胞死に至るまでのシグナル伝達機構はほとんど明らかになっていない。これらを解明するため、生細胞でMAPK活性をモニターできるバイオセンサーの開発、ならびに次世代シークエンサーを用いたMAPK-WRKY経路下流の細胞死誘導因子の探索を行っている。

 

第7回(博士学位予備審査) 平成271110日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

東 未来

(園芸科学研究分野  D3) 

花弁特異的プロモーターの開発とそれを活用した花きの分子育種

 花きの分子育種を行う場合,有用な形質をもつ遺伝子とその遺伝子の発現を花弁特異的に制御するプロモーターが必要になる.当研究室では,多様な花きで利用できる花弁特異的プロモーターの開発を目指し,アサガオの花弁特異的に発現するInMYB1遺伝子のプロモータ[領域に着目してきた.本研究では,(1InMYB1プロモーターがアサガオ以外の植物種においても,花弁特異的に@能するのかを明らかにするため,シロイヌナズナやトルコキキョウなどの多様な植物種におけるInMYB1プロモーターの機能を解析し,アサガオ以外の植物でも花弁特異的に機能することを明らかにした.次に,(2InMYB1プロモーターは特殊な形態を有する花き(がくや雄ずいが花弁化したような花き)においても機能するのかを明らかにするため,花の形態を改変した形質転換体あるいは変異体シロイヌナズナを用いて解析した.その結果,InMYB1プロモーターは,がくや雄ずいなどの他の花器官が花弁化した場合にも機能し,この花弁特異性は細胞レベルで制御されていることを明らかにした.最後に,(3InMYB1プロモーターの花弁特異的な作動機構を明らかにするため,InMYB1プロモーターフ花弁特異性を決定しているエレメントや転写因子の特定を試みた.今回は,これらの研究成果について報告する.

 

第6回 平成271030日(火)午後100分〜

農学部第7講義室

對馬 誠也

(農業環境技術研究所) 

植物生息微生物のバンク:微生物インベントリーとその活用

 植物体表面は、様々な環境ストレス(強い紫外線、風雨、乾燥、昼夜間の温度の変化、微生物間競合、微量な養分、植物生産毒素など)にさらさ れており、一種の「極限環境」と言われている。

このことから、植物体に生息する微生物は特殊な機能を有していることが示唆される。ここでは、これら微カ物フローラの研究成果を紹介する。

それら微生物の普及に向けた取り組みの一例として、微生物農薬の普及上の課題と新しい活用法を紹介する。

 

第5回 平成2710 6日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

藤原 幹

(生物相関防御学研究分野  博士研究員) 

イネ抵抗性タンパク質RGA4RGA5

複合体を形成することによって機能する

 植物の抵抗性 (R) タンパク質は、病原体に由来するエフェクターを認識する細胞内受容体として機能する。エフェクターを直接的、間接的に認識したRタンパク質は、様々な免疫反応を誘導することにより、植物体内での病原体の増殖、伝播を抑制する。この免疫反応は、ETI (Effector-triggered immunity) と呼ばれ、育種による抵抗性作物の作出の標的に用いられてきた。ETIは古典的に、植物のR遺伝子と微生物のエフェクター間の、11の関係性により制御される (遺伝子対遺伝子説) と考えられてきたが、近年になってこの例にあてはまらない、2つの異なるRタンパク質がETIの制御に関与する例が複数報告された。しかし、これらは遺伝学的な解析に基づいており、これら2つのRタンパク質が、どのような関係性によって免疫応答を制御しているか明らかとなっていなかった。

 イネRタンパク質、RGA4RGA5は、イネいもち病菌エフェクターであるAVR-Piaにより誘導されるETIを制御する。RGA4RGA5は、両方がAVR-Pia依存的なETIに必須であり、どちらか一方が失われるとETIが損なわれる。今回、RGA4RGA5に着目し、機能的、物理的な相互作用の解析により得られた成果を報告する。

 

第4回 平成27  714日(火)午後430分〜

_学部第8講義室

石本 聖絵

(植物遺伝育種学研究分野  D2) 

MAPKカスケードによるイネ胚発生初期における細胞分化の制御

 植物における胚発生は1つの接合子が細胞分裂・分化を行い、頂端分裂組織や維管束をはじめ発芽後に必要な器官を形成する過程である事から形態形成の根幹であるといえる。高等植物では、受粉後短期間で軸形成に基づいた位置決定により器官形成が行われることが知られており、胚発生初期で細胞の運命決定が行われていると予想される。

 シロイヌナズナを用いた解析により高等植物では初期胚における厳密に決定された細胞分裂様式が細胞運命決定に密接に関わっていると考えられている。しかし、シロイヌナズナが持つ厳密な細胞分裂様式は他の植物では保存されていない事から細胞分裂様式と器官分化の関係性は未だ明らかになっていない。

シロイヌナズナにおいて細胞分裂様式の決定及び胚柄形成にMitogen Activated Protein KinaseMAPK)カスケードが関与していることが明らかになって「ることから、本研究ではこのカスケードに着目し、イネにおいてMAPKカスケード構成因子の一つを欠失した変異体であるglobular embryo 4 (gle4) の初期胚の細胞分裂様式および領域分化を解析する事で、イネ胚における細胞分裂様式と細胞運命決定の関係性の有無を明らかにした。

 加えて、MAPKカスケードと関連がある受容体型キナーゼの変異体の表現型がgle4と類似していることから、この受容体型キナーゼがMAPKカスケードと同一の経路で胚発生過程を制御していることが予想された。この変異体の解析結果および予想される胚形成過程初期における細胞運命決定機構について議論する。

 

第3回 平成27  616日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

佐藤 育男

(植物病理学研究分野 助教) 

フザリウム病害の生物防除に関する研究

(トマト根腐萎凋病、コムギ赤かび病菌産生毒素)

  微生物等を利用して植物病害の防除を行う生物防除法は、環境保全型農業の実現やIPM(総合的病害虫・雑草管理)の推進に役立つものとして今後の普及が期待され、研究が行われている。今回のセミナーでは演者が取り組んできたトマトとコムギのフザリウム病害に対する2つの生物防除研究を紹介する。

1) Fusarium oxysporumが引き起こす難防除性土壌病害であるトマト根腐萎凋病の生物防除法の開発を目指し、トマト葉圏から単離されたBacillusおよびPaenibacillus属細菌株から防除効果の高いPaenibacillus属2株を選抜した。さらに選抜株の防除機構について解析し、2株は病原菌に対する直接的な抗菌活性ヲさないが、トマト根部での定着能を有し、病害抵抗性を誘導することを明らかにした。

2) デオキシニバレノール(DON)は主に赤かび病菌Fusarium graminearumが産生する難分解性のかび毒で穀物中に蓄積し、食中毒や免疫機能の低下を引き起こすため、国内ではコムギでの暫定基準値1.1 ppmが定められている。

 本研究では、微生物を利用したDON低減化技術の開発に向けた基礎的知見を得ること目的として、多数のDON分解細菌を分離し、分解特性を解析するとともに初発DON分解酵素・遺伝子を明らかにした。

 

第2回 平成27  519日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

千葉 壮太郎

(アジアサテライトキャンパス学院 特任准教授)

(植物病理学研究分野) 

ウイルス-宿主間のせめぎ合い

~糸状菌もウイルスと闘っている~

 近年、植物病原糸状菌の病害制御を目指して、菌類ウイルス(マイコウイルス)を利用する方法が検討・研究されている。演者は、白紋羽a菌のマイコウイルスによる生物防除法(いわゆる「ヴァイロコントロール」)の開発に従事してきたが、この過程で病原菌に対して病原性(我々にとっての有用性)を示したウイルスはごく一部であった。つまり、一般的に言われるように、マイコウイルスの大部分は不顕性感染する。これは、1)進化的にウイルスと宿主が共生関係を築き上げているか、2)宿主が効率的にウイルスを抑え込んでいるか、に起因すると考えられた。そこで演者らは後者 2)に着目し、菌類の免疫とも言える「坑ウイルス防御機構としてのRNAサイレンシング」と「多様な種のマイコウイルス」の間で繰広げられるせめぎ合いを解析することにした。

 モデル宿主としてクリ胴枯病菌(Cryphonectria parasitica)用い、612種のマイコウイルスを感染させると、多様なウイルス病原性、ウイルス蓄積(複製)レベル、宿主RNAサイレンシングの活性化レベルが観察された。これらの間には、ある程度の相関が認められ、宿主菌がウイルス感染に対して極めて能動的に対処していることが明らかとされた。

 

第1回 平成27  421日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

村瀬 潤

(土壌生物化学研究分野 准教授)

土壌微生物学(者)は何故「奥ゆかしい」のか?

-水田土壌に生息する真核微生物の多様性と機能を例に-

 水田土壌は湛水されることで、畑や森林の土壌とは異なる特徴的な生物地球化学的物質循環が進行する。物質循環の主役は真正細菌、古細菌などの原核微生物と認識されており、真核微生物の機能についてはこれまでほとんど注目されてこなかった。演者らは培養法や分子生物学的手法で水田土壌の原生生物(動物)を中心とした真核微生物群集の多様性の解明を進めるとともに、水田土壌の物質代謝や他微生物(細菌群)に及ぼす影響を明らかにすべく研究を進めてきた。培養法によって土壌から分離される原生生物は、土壌から抽出した核酸の解析によって検出される優占種とは必ずしも一致しない。また、DNAレベルでみる遺伝子プールとしての群集とrRNAを発現する「活性を有する」群集を区別して解析できるなど、分子学的手法は真核微生物の多様性と機能を推定する有効なツールとなる。一方で、従来の手法では検出されない原生生物も新に分離されるネど、分子学的手法も万能なわけではない。原生動物の捕食作用は、土壌中の様々の物質代謝に関連しており、土壌中の細菌バイオマスを減少させるだけでなく、細菌群集構造を規定する重要な生物因子となりうる。本セミナーでは、水田土壌の真核微生物群集に関する研究成果を例に、土壌微生物群集の多様性や相互作用の複雑ォについて紹介する。

 

 

平成26年度 資源生物機能学講座セミナー

連絡先:資源生物機能学講座(園芸科学研究分野)白武(内線4026

第9回 平成27  120日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

Rasit ASILOGLU

(土壌生物化学研究分野 D2

Spatial Distribution and Community Structure of Protozoa in a Rice Rhizosphere

 The rice rhizosphere is a hotspot for microorganisms in paddy soil due to supply of organic matter and oxygen to the rhizosphere by the rice roots. However, less is still known about the microeukaryotic community structure of the rice rhizosphere. In our study, we characterized the present and potentially active microeukaryotic community structures of the rice rhizosphere through denaturing gradient gel electrophoresis (DGGE) in a field and pot experiment. Results showed that the rice rhizosphere inhabited with specific microeukaryotes and protozoa are the key organisms. To reveal the effects of rice roots on protozoan community structure and their spatial distribution, we made a “mini-rhizobox” experiment, which enables their microscopic observation and culture dependent & independent analyses. We showed that rice roots supply a favorable habitat for specific protozoa. Differential distribution patterns of amoeba, ciliates and flagellates were observed in the rice rhizosphere. The root tip part was characterized by the expanded distribution of flagellates and exclusive distribution of ciliates. Our results showed the importance of rice roots for microeukaryotic community and suggested that protozoa may play ecological roles in the rice rhizosphere.

 

博士学位予備審査 平成26 1226日(金)1300分〜

農学部第8講義室

中嶋 竜一

(園芸科学研究分野 D3

イチゴにおける花芽分化機構

FTおよびTFL1発現・機能解析

 本研究の目的は、栽培イチゴの花芽分化機構を解明し、農業現場へと応用することである。イチゴの促成栽培では、花芽分化の判断が重要な指標とネってい驍ェ、短日低温で花芽誘導される際の分子生物学的なメカニズムは不明であった。本研究では、シロイヌナズナ等多くの植物で花芽分化誘導に関わるFT、抑制に関わるTFL1遺伝子に着目し、解析をおこなった。その結果、驚くべきことにイチゴのFaFT1は、花芽分化が起こらない長日条件にて葉で発現し、花芽分化が起こる短日夜冷条件で発現が抑制され、花芽分化誘導以外の機能を有していることが示唆された。一方で、FaTFL1sは興味深いことに全てクラウンで発現しながらも、発現様式がそれぞれ異なっていた。FaTFL1-1およびFaTFL3は恒常的に発現したのに対し、FaTFL2のみが短日夜冷に反応し花芽分化と連動した発現低下が確認された。FaTFL2はクラウン茎頂部付近で発現していたことから、ヤ芽分化抑制能を有するFaTFL1-1と異なり、FaTFL2が主要な花芽分化抑制因子であることが示唆された。また、この現象は単一品種だけでなく他品種でも同様に見られたことから、栽培イチゴに共通することが示唆された。FaTFL2は主に温度による影響を受けていることが示唆されたため、人工気象器を用いて、現行の育苗法である短日夜冷のコストを削減する新たな育苗条件を探索した。その結果、短日夜冷の夜冷時間を半減させても、FaTFL2`子発現様式は同等であることを見出した。今後、イチゴ促成栽培の冷房コストを半減出来ると期待される。

 

博士学位予備審査 平成26 1226日(金)1430分〜

農学部第8講義室

劉 冬艶

(土壌生物化学研究分野@D3

Dynamics and stability of structure of methanogenic archaeal community in paddy field soil

 Methanogenic archaea produce methane by utilizing the terminal products of organic decomposition such as acetate and hydrogen under anaerobic conditions in the paddy field. Thus, anaerobic soil conditions and substrates for growth are essential for methanogenic archaea to produce methane. My study focuses on changes of methanogenic archaeal community and abundance in paddy fields with the treatments such as extended period of flooding or draining of the field and increase in CO2 (increase in substrates supply) in the field, which are different from the conventional paddy fields. This study revealed that the composition and abundance of methanogenic archaea were not affected by extended flooding period and increased CO2 concentration, but affected by prolonged drained period in the paddy fields. Composition and abundance of methanogenic archaea remarkably fluctuated under the adverse soil conditions (the prolonged period of drainage). In particular, prolonged drained period in the paddy field for more than one year reduced abundance of methanogenic archaea by nearly one-tenth and was fatal to some members of Methanosarcinales. Furthermore, almost no methane was produced and transcriptional activity of mcrA, an essential gene for methanogenesis, was significantly decreased by the prolonged drained period in the paddy field.

 

第8回 平成26 1216日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

大福 美帆

(生物相関防御学研究分野 D2

カルシウム依存性プロテインキナーゼによるNADPHオキシダーゼの活性制御機構について

  植物は、病原菌の攻撃に応答して急激な活性酸素��ireactive oxygen species; ROS)の生成を引き起こす。この反応はROSバーストと呼ばれ、局所的、全身的な植物の防御応答シグナルとして重要な役割を果たしていることが知られている。植物のROSは、主にNADPHオキシダーゼであるRBOHrespiratory burst oxidase homolog)によって産生されることが示されている。 

 これまでに、ジャガイモのカルシウム依存性プロテインキナーゼ(calcium-dependent protein kinases; CDPKs)であるStCDPK5が、StRBOHBN末端領域をリン酸化することによってROS生産を亢進することが示されている。本研究では、CDPKによるRBOHの活性化機構の詳細について調べるため、ベンサミアナのオルソログであるNbRBOHBNbCDPK5を用いた。NbCDPK5は、NbRBOHBと同じく原形質膜に局在しており、直接相互作用していることが明らかになってきた。

 

博士学位予備審査 平成26 1212日(金)午前1030分〜

農学部第2講義室

榧野 友香

(植物a理学研究分野 D3

牧草共生糸状菌の共生確立に関与する活性酸素生成制御因子の機能解析

 植物体内で共生的に生活している細菌や糸状菌を総称してエンドファイト(endo=内部、phyte=植物)と呼ぶ。Epichloёエンドファイトは牧草や芝草の細胞間隙で生育する糸状菌エンドファイトであり、本菌の感染により宿主植物には哺乳動物による捕食の抑制、害虫への忌避作用、耐病性の向上などの効果がもたらされる。E. festucaeの宿主植物への共生的感染の確立には活性酸素生成酵素NoxAが不可欠であり、noxA変異株は感染植物の矮化を引き起こし、やがて植物体を枯死させてしまう。さらに、NoxAの制御因子としてNoxRおよび低分子量Gタンパク質RacAが同定されており、これら制御因子の変異株においても共生確立能が失わ黷驕Bまた、NoxRと相互作用する因子として、酵母における細胞極性の決定因子であるBemAおよびCdc24が同定されている。RacAと構造的に非常に類似している低分子量Gタンパク質にCdc42がある。Cdc42は酵母において細胞極性の決定に関与することが知られているが、Nox複合体構成因子間の相互作用解析の結果、RacANoxRと、Cdc42BemAと特異的に褐ン作用することが明らかとなった。本研究では、E. festucaeとその宿主植物であるペレニアルライグラスにおける共生確立機構の解明を目指し、RacACdc42の機能分化に焦点を当てながら、E. festucaeにおけるNox複合体の機能について解析している。

 

第7回 平成26 1118日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

土岐 精一

(農業生物資源研究所ゲノ機能改変研究ユニット ユニット長)

植物の標的変異技術と標的組換え技術

植物におけるloss of function型とgain of function型の変異導入技術の開発

 植物のゲノム編集技術は、遺伝子の機能解析を促進させるだけでなく、品種改良においても重要な手法となることが期待されている。特に近年設計の容易な人工ヌクレアーゼであるCRISPR/Cas9システムが開ュされ、これを用いて標的遺伝子を切断し、その修復過程において標的遺伝子に機能欠損型の変異を導入する技術(標的変異技術)が、様々な植物種において適用されている。

 一方、相同組換えを用いて標的遺`子を改変する技術である標的組換え技術(ジーンターゲッティング)も、CRISPR/Cas9システムの利用や、マーカー遺伝子の除去システムの改良により、標的遺伝子の任意の配列を正確に改変する技術(機能獲得型の変異導入技術)に発展してきている。

 本セミナーは我々がイネにおいて開発してきた標的変異技術と標的組換え技術の現状について紹介するとニもに、これらの技術を他の有用作物等の変異導入や品種改良に適用する際の技術的課題について考察したい。

 

第6回 平成26 117日(火)午後430分〜

農学部第7講義室

Dr. Qinglin Zhang(張 青林)

(華中農業大学)

Characterization, Breeding and Utilization of Chinese PCNA Persimmon

Persimmon (Diospyros kaki Thunb.) has been grown in China since ancient times and over 1,000 cultivars have been selected and China kept the largest production of persimmon in the world with 95% of PCA (Pollination Contsant Astringent) types. Chinese PCNA (Pollination Constant Non-Astringent) ‘Luotiantianshi’ possess abundant genetic diversity and should be a variety group than a single cultivar based on ISSR and IRAP. Chinese PCNA and androecious genotypes showed a far genetic distance to the cultivars of Japanese origin through multiple molecular markers analysis. Including ‘Luotiantianshi’ and other Chinese PCNA genotypes such as  eEshi 1’, ‘Baogaitianshi’ showed the dominant de-astringency trait compared with Japanese PCNA, meanwhile androecious genotyps also own RO2 dominant de-astringency marker, and those genotypes can be used for breeding new Chinese PCNA. Using artificial pollination, embryo rescue, RO2 marker selection and in vitro plantlets shoots grafting on rootstock in greenhouse to promote early flowering and fruit evaluation. Proanothocyanidin (Pas, als called Persimmon Tannin) biosynthesis genes like ANR, LAR, regulatory genes like MYB, bHLH and transportation gene as MATE had been identified. Persimmon tannin is abundant as a kind of natural polymer, which has high affinity to some specified metal ions such as Au3+ and heavy metal ions. A new adsorption resin biosorbent using persimmon fruits powder and formaldehyde to adsorb Au3+ with nearly 100% adsorption rate.

 

第5回 平成26 107日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

鈴木 真実

(園芸科学研究分野 D3

ブドウにおける二次代謝産物蓄積機構解明に向けたPDRABCトランスポーターの解析およびマルチオミクス

 ブドウは果皮にレスベラトロール,アントシアニン,カテキンなど多くの二次代謝産物を蓄積する.これらは病原菌や環境ストレスの防御など生存戦略に必要なだけでなく,色,味,そして人の健康にも効果があるため産業的にも重要である.果皮の二次代謝産物蓄積機構を解明するため,はじめにPDRABCトランスポーター(VvABCG44)の単離と解析sった.紫外線を照射するとレスベラトロール合成酵素とともに発現が誘導されたため,VvABCG44がレスベラトロール蓄積に関与する可能性が示唆された.次に紫外線を照射した果皮を用いたマルチオミクスに取り組んだ.全ゲノム対象のマイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析では,Gene OntologyGO)によるエンリッチメント解析で発現が誘導されるGOタームを抜き出した.またLC-QTOF-MSを使用したメタボローム解析を行い,主成分分析で2000種以上の代謝物ピークの中から特有の化合物を抽出した.両データはKaPPA-View4 KEGGのシステムを更新したのち代謝マッvに統合し,紫外線でレスベラトロール代謝系が際立って誘導ウれることを示した.最後に成熟果皮を用いたメタボローム解析についても一部紹介する.

 

第4回 平成26 929日(月)午後430分〜

農学部第8講義室

太田 寛行

(茨城大学農学部 教授)

土壌糸状菌に内生する難培養性細菌のゲノム解析

 一酸化二窒素(N2O)を生成する土壌糸状菌を調べていく過程で,菌糸内に細菌様構「をもつ菌株がみつかった.糸状菌体およびその破砕物の顕微鏡観察,16S rRNA遺伝子のPCR増幅,エンドトキシン検出のすべてで陽性となった菌株は4つあり,それらはすべてMortierella elongataと同定された.また,内生細菌はすべてBetaproteobacteriaBurkholderiaceae科に属した.糸状菌からの内生細菌の純��ェ離が困難を極めたため,糸状菌体(FMR23-6株)の破砕物から内生細菌画分を調製してゲノムを解析した.その結果, FMR23-6株の内生細菌はシステイン生合成経路を欠くことがわかり,システイン含有培地を用いて純粋分離に成功した.糸状菌内生細菌は,これまでに2例(Ca. Glomeribacter gigasporarum /Gigaspora margaritaBurkholderia rhizoxinica/ Rhizopus microsporus)のゲノム解析が知られている.セミナーでは,その研究例と比較しながら考察したい.

 

第3回 平成26 715日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

佐藤 育男

A物病理学研究分野 助教)

カビフ硫黄還元機構とその生理的役割の解明

 一部の嫌気性細菌や古細菌は、低酸素下で酸素の代わりに硫黄(S0)を還元し、嫌気呼吸によりエネルギーを獲得し生育する。一方、真核生物であるカビでも、低酸素下で培地中の硫黄を還元し、硫化水素を生成する現象が見出されていたが、カビの硫黄還元機構と生理機能は不明であった。そこで本研究では、まず、カビFusarium oxysporumの細胞抽出液から酵素活性を指標にして、硫黄還元酵素(SR)を精製し、反応機構を調べた。続いて、SR遺伝子のクローニングおよび遺伝子破壊株を作製し、その表現型を解析しス。その結果、グルタチオンとグルタチオン還元酵素から成るグルタチオン系がSRとして機能すること、硫黄還元反応はカビにとって毒性の高い硫黄を毒性の低い硫化水素に還元することで硫黄ストレスの回避に寄与することが明らかになった。

 

第2回 平成26 617日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

高橋 宏和

(植物遺伝育種学研究分野 博士研究員)

葉由来の糖によるダイズの二次通気組織形成機構の解明

 集中豪雨や長雨、^水なヌによって、土壌の過湿状態や植物の冠水が引き起こされると、植物の根は酸素不足になり、生育障害などが生じる。このような環境に適応するために、植物は酸素不足を回避するための様々な機構を有している。そのような適応形質の一つである通気組織は、根や茎などに形成される空隙であり、茎葉部から根へ効率的に酸素を供給するための経路となっている。通気組織は、一次通気組織と二次通気組織の2種類に大別される。一次通気組織は根の皮層組織における細胞死や特殊な細胞分裂と伸長によって形成される空隙の多い組織である。一方で、汳ハ気組織はマメ科などの一部の双子葉植物の胚軸、根、根粒などに二次肥大によって新たに形成されるスポンジ状の空рフ多い組織である。ダイズは、過湿土壌に応答して、胚軸や根に新たに二次通気組織と呼ばれる多孔質な組織を形成する。ダイズの二次通気組織形成は、過湿条件下であっても、暗処理や葉の遮光により阻害されることから、その形成には光合成産物である糖が重要ナあると考え轤黷ス。本セミナーでは、ダイズの二次通気組織形成に光合成産物である糖がどのように関与しているかを紹介する。また、ダイズの二次通気組織形成過程で発現する遺伝子の同定を通して明らかになってきた二次通気組織の形成機構についても紹介する。

 

第1回 平成26 520日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

東 未来

(園芸科学研究分野 D2

花きの分子育種に応用するための花弁特異的プロモーターの機能解析

 これまでの花きの育種は、美しい色や形といった有用形質を持つ系統を選抜しながら、何度も交配を繰り返し、長い時間をかけて行われてきた。しかし、消費者の求める新しい色や珍しい形の花を作出していくためには、交雑育種だけでは限界があり、近年においては遺`子組換えによって開発された花き品種も登場しつつある。花の色や形の改変を目指した花きの遺伝子組換えは、目的の形質を改変する遺伝子の特定や単離だけでなく、その遺伝子の発現を制御キるためのプロモーターの存在が重要である。植物の遺伝子組換えでは、植物全身で恒常的な発現を促すプロモーターが用いられる場合が多いが、植物の生育に悪影響を及ぼす場合がある。そこで我々は、花きの分子育種に活用するための花弁特異的プロモーターを開発するため、花弁特異的に発現するアサガオ由来の転写因子、InMYB1遺伝子のプロモーター領域に着目した。InMYB1プロモーターはアサガオ以外の花きにおいても、花弁特異的に機能することと多様な種の花きの花弁で機能することがこれまでに示されている。本研究では、このInMYB1プロモーターの詳細な機能を明らかにし、より多様性のある花弁特異的プロモーターの開発を目wす。そのために、InMYB1プロモーターの詳細な作動条件の検証とInMYB1プロモーターの花弁特異性を制御する機構を明らかにするとともに、InMYB1プロモーターを活用した花きの分子育種を行っている。

 

平成25年度 資源生物機能学講座セミナー

連絡先:資源生物機能学講座(植物遺伝育種学研究分野)佐藤(内線4016

第9回 平成26 121日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

中崎 竜一

(園芸科学研究分野 D2

イチゴにおけるFTTFL1発現解析と機能解析

本研究の目的は、イチゴの花芽分化機構を解明し、農業現場へと応用することである。イチゴの促成栽培では花芽分化の判断が重要な指標となっているが、分子生物学的なメカニズムは分かっていないことが多い。本研究ではシロイヌナズナ等多くの植物で花芽分化に関わるとされるFTTFL1遺伝子に着目し、ヘ培イチゴにおいて発現解析と機能解析をィこなった。イチゴの葉と茎頂を含むクラウンから、FT1種類、TFL13種類クローニングし構造解析をおこなったところ、アミノ酸残基置換による機能変異は確認出来なかった。驚くべきことに、花芽分化誘導機能を持つと予想したイチゴのFaFT1は花芽分化が起こらない長日条件にて発現し、花芽分化が起こる短日夜冷条件で発現が消失した。一方で花芽分化抑制機能を持つFaTFL1sは興味深いことに全てクラウンで発現しながらも、発現様式がそれぞれ異なっていた。FaTFL1-1およびFaTFL3は恒常的に発現したのに対し、FaTFL2のみが短日夜冷に反応し花芽分化と連動した発現低下が確認され、FaTFL2が主要な花芽分化抑制因子であることが示唆された。また、この現象は単一品種だけでなく他品種でも同様に見られ、栽培イチゴに共通するこニを確認した。現在、さらなる機能解析のために形質転換やウェスタンブロットなどを試みている。そして、得られた知見の応用面として、新たな花芽分化誘導法の検証をおこなう予定である。

 

第7回 平成25 1216日(月)午前1000分〜

農学部第8講義室 (博士学位予備審査)

Jennifer Niones

(植物病理学研究分野 D3

牧草共生糸状菌の抗菌活性に関与する遺伝子の研究

 

Layth Sbaihat

(植物病理学研究分野 D3

各種エリシターの植物抵抗反応誘導活性に関する研究

 

第6回 平成25 1119日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

榧野 友香

(植物病理学研究分野 D2

牧草共生糸状菌の共生確立に関与する活性酸素生成制御因子の機能解析

本研究は、牧草共生糸状菌(エンドファイト)であるEpichloё festucaeとその宿主植物であるペレニアルライグラスにおける共生確立機構の解明を目指している。Epichloё属エンドファイトはイチゴツナギ亜科の牧草や芝草の細胞間隙で生育する糸状菌エンドファイトナあり、本菌の感染により宿主植物には哺乳動物による捕Hの抑制、害虫の忌避作用、耐病性の向上などの効果がもたらされる。E. festucaeが宿主植物と共生関係を確立するためには活性酸素生成酵素(NoxA)が不可欠であり、noxA変異株は感染植物の矮化を引き起こし、やがて植物体を枯死させてしまう。さらに、NoxAの制御因子としてNoxRおよび低分子量Gタンパク質RacAが同定されており、これら制御因子の変異株においても共生確立能が失われる。また、NoxRと相互作用する因子としてこれまでに、BemAおよびCdc24が同定されている。RacAと構造的に非常に類似している低分子量Gタンパク質にCdc42があり、RacANoxRと、Cdc42BemAと特異的に相互作用することが明らかとなった。本研究では、RacAおよびCdc42j壊株を用いた表現型の解析、これら低分子量Gタンパク質のキメラ遺伝子を用いた解析などを行い、RacACdc42の機能分化に焦点を当てながら、E. festucaeにおけるNox。合体の機\について解析している。

 

第5回 平成25 1029日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

Dongyan Liu

(土壌生物化学研究分野 D2

Dynamics of methanogenic archaeal community structures in paddy fields

Greenhouse gas CH4 is an end product in the anaerobic decomposition process of organic matter and paddy fields are a major source of CH4 emission. CH4 is generated by methanogenic archaea in paddy fields. Methanogenic archaea are strict anaerobes and produce CH4 only under flooded conditions; i.e. anaerobic soil conditions and substrates for growth are essential for methanogenic archaea to produce CH4. The objective of my study is to understand effects of extended period of flooding or draining of the field and increase in the supply of organic matter in soil on methanogenic archaea in paddy fields. In this seminar, I introduce dynamics of methanogenic archaeal community structures in the paddy fields under winter-flooding, FACE (Free air CO2 enrichment) and paddy-upland rotational treatments.

 

第4回 平成25 716日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

Dr. Stefan Reuscher

(園芸科学研究分野)

Improvement of crops through genetic and genomic resources

Cereal metal homeostasis

The accumulation of both essential nutrients and chemically similar toxic analogues in cereal grains has a major impact on the quality and nutritional safety of crops. Naturally occurring genetic diversity can be exploited for the breeding of improved varieties through the use of introgression lines (ILs). Data from a multi-element analysis using a set of 42 barley ILs will be presented. Focusing on the accumulation of the micronutrients Fe and Zn and the interfering toxin Cd, 25, 16 and 5 QTL, respectively were identified and associated with candidate genes. Through correlation and comparative analyses evidence for specific remobilization of Fe, Cu and Mn from the flag leaf to the grain was detected. Our data identifies grain micronutrient filling as a highly regulated and specific process, which operates independently of vegetative micronutrient homoeostasis.

Tomato genomics

Tomato is an important food crop and also serves as a model system for fleshy fruit development. In our recent studies two gene families most likely contributing to agriculturally important fruit traits were studied. Aquaporins are water- and solute channels that allow efficient diffusion of their substrates through membranes. A genome-wide search for aquaporins in the tomato genome identified 47 putative aquaporins. Sugar transporter are a diverse family with 55 members in tomato. Most members are H+-symporters that facilitate the transport of mono- and disaccharides, sugar-alcohols and other modified carbohydrates across membranes. Phylogenetic and in-detail sequence analyses combined with  comparative analysis of gene expression in different vegetative tissues and during fruit development indicated potential functions of aquaporins and sugar transporters during tomato fruit development.

 

第3回 平成25 618日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

野田 祐作

(植物遺伝育種学研究分野)

イネ胚形成におけるETTIN/ARF転写因子の機能解析

高等植物では植物の成長を支える基本的な器官である葉や茎などの源となる茎頂分裂組織 (Shoot Apical Meristem : SAM) 等を胚発生時に形成し、その後葉や茎を分化させる。正常な胚が形成されるには厳密な制御が分化の過程に必要と考えられるが、イネの胚発生に関与する分子機構の研究は明らかになっていない。

本研究室では、単子葉植物のモデル植物であるイネ (Oryza sativa) を用い、植物の胚における器官分化のメカニズムの解明を目指している。SAMの構築に異常のある変異体としてshootless (shl) 変異体及びshoot organization (sho) 変異体の2つの変異体が知られている。shl及びsho変異体の原因遺伝子は、共にtrans-acting small interfering RNA (ta-siRNA) を介したRNAサイレンシング機構に関わる遺伝子である。これらの変異体ではta-siRNAの生成が減少し、そのターゲットであるETTIN/ARF転写因子の発現が上昇していた。本研究では、ta-siRNAによるETTIN/ARFの発現調節がイネにおける器官分化の制御に関与するかどうか明らかにすることを目的とした。

ta-siRNAのターゲットであるETTIN/ARFに着目し、遺伝子発現解析を行ったところ、イネに4コピー存在するOsETTINの内、OsETTIN1OsETTIN2OsETTIN4が野生型の初期胚全体で発現していることが確認され、OsETTIN3だけがSAMの分化\定領域で発現が見られなかった。また、栄養成長期のSAM全体でOsETTIN3のプロモーター活性があることが観察されたが、実際のOsETTIN3 mRNAの蓄積は若い葉原基の背軸側のみで見られ、このアとは、OsETTIN3SAM及び葉の向軸側でta-siRNAによるmRNAの分解を受けていることを示唆する結果となった。また、OsETTIN過剰発現体の作出及び解析から、OsETTIN3の発現が器官分化に強く関与することが示唆された。

 

第2回 平成25 521日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

大福 美帆

(生物相関防御学研究分野 D1

ハンゲショウ抽出物のガン細胞株に対する増殖抑制作用について

生薬には植物由来のものが多く、二次代謝物質として産生される様々な天然有機化合物が抗ガン活性を示す有効成分として知られている。様々な植物抽出物を用いてガン細胞株に対する抗ガン活性をスクリーニングしたところ、ハンゲショウ抽出物に強い細胞増殖抑制作用が確認された。ハンゲショウ抽出物はガン細胞株であるColon26細胞、HepG2細胞、HL60細胞に対して強い抗増殖活性を示した。一方、正常細胞であるMEFの増殖には影響しなかった。このことから、ハンゲショウ抽出物はガン細胞特異的に増殖抑制作用を示すことが示された。Colon26細胞に対する増殖抑制作用のメカニズムを解析したところ、細胞周期停止に関与するp21遺伝子発現量が増加していることが確認された。ウエスタンブロットの結果から、p21の発現量の増加はERKp38のリン酸化を介したがん抑制因子であるp53の細胞内タンパク質量の増加によるものであることが示唆された。また、ハンゲショウ抽出物中に含まれる細胞増殖抑制因子の精製を試みたところ、リグナンの一種であるサウキノンが活性物質の1つであることが示された。

 

第1回 平成25 430日(火)午後430分〜

農学部第8講義室

浅川 晋

(土壌生物化学研究分野 教授)

水田土壌微生物の不思議を探る

みなさん、生物の不思議を解き明かしたいですよね?私も同じです。私は水田土壌に生息する微生物に興味を持って研究を進めています。今回のセミナーでは、水田から発生する温室効果ガス、メタンの生成・酸化に関わる微生物についての研究例を話題として、水田土壌微生物の不思議を探る研究の一端をご紹介し、その奥深さをお話しできればと思います

 


平成24年度以前に終了したセミナー

 


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更新日 平成281121